文部省唱歌の美しすぎる2台ピアノ編曲版

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【日時】2012年10月19日(金)19時開演
【会場】ルーテル市ヶ谷センター
【出演】武正久美子、宇都宮三花(ピアノ)、堀内淳(ナビゲーター)
【曲目】
○バッハ(マイラ・ヘス編曲)/主よ、人の望みの喜びよ
○モーツァルト/2台のピアノのためのソナタ・ニ長調K448
○ラヴェル/ラ・ヴァルス
○三善晃/唱歌の四季
○アレンスキー/2台のピアノのための組曲第2番≪シルエット≫
(アンコール)
○サン=サーンス/白鳥
○バッハ(マイラ・ヘス編曲)/主よ、人の望みの喜びよ
 
「アレンスキー」「堀内淳」「宇都宮三花」。こんな強力キーワードが並ぶこのコンサートのことを知った次の瞬間、カレンダーに予定を書き込んだことは言うまでもない。ちなみに、モーツァルトのK448は「のだめ」の重要場面での使用曲、また、「頭が良くなる曲」としても有名らしい
(過去記事≪モーツァルトは頭を良くするか-「モーツァルト効果」をめぐる科学とニセ科学-≫参照)
 
唯一、日本人作曲家の≪唱歌の四季≫という曲だけ知りません。ぼくは現代音楽は苦手なのです。三善晃さんのお名前だけは知っていますが、この人の作品を聴いたことがないし、自分から進んで聴く気もない。つまり、強制的に聴かなければならない状況。が、知らないということは結局、自分の世界を狭くするだけと思い知りました。約200名の聴衆のほとんど(ハル●ウ先輩除く)がおそらく初めて聴くだろうと思われた≪唱歌の四季≫は、果たして、日本人なら誰でも知っている文部省唱歌を、誰も聴いたことがないような豊潤なハーモニーで包んだ編曲作品でした。
 
<曲名>
唱歌の四季(三善晃)
第1曲 おぼろ月夜
第2曲 茶摘
第3曲 紅葉
第4曲 雪
第5曲 夕焼け小焼け
 
音楽は、どんな編曲をしても音から音への衣替えに過ぎない。でも、三善晃さんの「編曲」はほとんど「映像化」と言いたくなるほどイメージの豊かさが音楽離れしていて、あまりの美しさに現実の四季の風景ではない、どこかにあるかもしれない理想的な日本の風景を描いているような気がしました。ピアノを聴きながらこんなに幸せな気持ちになったのはいつ以来だろう?ぼくはこの曲を教えてくれた今回のコンサートに心底感謝します。
 
ハ●コウ先輩が確保してくださった席は前から3列目のほぼ中央で、これはとても良いポジションでした。2台のピアノの音が溶け合う前に耳に届くので、CDで聴いているとどっちがどっちだか?1台なのか2台なのかも分からなくなることがしばしばの人(ぼく)にも両者の掛け合いが手に取るように分かり、まるで自分が合奏を楽しんでいるつもりで聴きました。
 
このコンサートはナビゲーター付きで、ナビゲーターというのは曲間にアナウンス(+α)でもするのかしらんと想像していたのですが、彼は曲間にピアニストたちと交代でステージに現れ、例えばK448についてはモーツァルトとヨゼファ令嬢の恋バナを語り、「おそらくモーツァルトが第2ピアノを弾いたのではないか。」と聞いて私たちはステージのピアニストたちに200年前のモーツァルトとヨゼファ令嬢の姿を重ねる。「ラ・ヴァルス」については、この曲が管弦楽版よりも前に2台ピアノ版で初演され、そこには若きプーランクやストラヴィンスキーが居合わせていたと語り、私たちは市ヶ谷のステージに1920年のパリのサロンを見る。つまり、それぞれの作品の世界に、文字通り「ナビゲート」されていたのだと気づく。
 
が、ステージ上のナビゲーター堀内淳氏はあまりにカッコよく、ぼくのいつもの飲み仲間の堀内淳さんではなかった。同姓同名の別人だったようだ、間違いない
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広島交響楽団の演奏会を聴く。

中四国唯一のプロオーケストラ、広島交響楽団(広響)。
 
学生時代はよくコンサートに行きましたが、社会人になってからの10数年は平均すると年1回以下。そんなぼくが最近1年間で広響を聴くのは3回目。ついに定期演奏会にデビュー。人が変わったように再びコンサート通いをするようになったのは、ブロ友さんの影響以外に理由はないと思われます。
 
今回は、同じ職場で隣の席の女の子(24歳)をお誘いしました。彼女は特にクラシック・ファンではないけど、最近はYouTubeで「くるみ割り人形」を聴いたり、また絵画などの芸術にも関心があると聞いていたので、今回のプログラムこそ聴いてもらいたいと思い、数ヶ月前からお誘いしていたのです。
 
広島交響楽団第306回定期演奏会
指揮:パスカル・ヴェロ
【日時】2011年2月24日(木)18時45分開演
【会場】広島市文化交流会館(旧・広島厚生年金会館)
【曲目】
○ドビュッシー/交響組曲「春」
○イベール/寄港地
○ラヴェル/ラ・ヴァルス
○ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
○ドビュッシー/海
 
ご覧の通り、昨年11月の名古屋市民管弦楽団に対抗するかのような(?)オール・フランス・プログラム。指揮のパスカル・ヴェロ氏は仙台フィルの常任。広響には初登場です。
 
前半は、3曲。
 
ドビュッシー/交響組曲「春」
1曲目は、ドビュッシーの「春」。有名曲揃いのプログラムの中、この曲だけ知りません。ドビュッシーの未知の曲は、ぼくにとって「対象外」と等しく、広響の定期は開演時間が早いので、もし急な仕事が入ったら1曲目は捨ててもいいなと思いつつ、幸か不幸か(?)当日は何事もなく定時退社。余裕で間に合いました。

「春」はドビュッシーのローマ留学時代に書かれた、事実上の処女作(だそうです)。2つの楽章から構成。第1曲の冒頭は、フルートとピアノのユニゾン。ほ~、変わってるな。勝手な想像をすると、春の訪れの直前、まだ凍土が残る冷たい空気の中、若芽が少しだけ顔を出したかのような。やがて日差しが暖かくなり、草木が伸び伸びと育っていく。生命力に満ちた春の一場面(あくまで勝手な想像)。そんな感動的な映像を彷彿とさせる。なんて素敵な曲だろう!ぼくはすっかり魅せられてしまいました。彼女もこの曲が一番気に入った様子。第2曲はインパクトがやや弱く、どんな曲だったか思い出せない…。
 
当初、楽譜の提出を受けたフランス音楽アカデミーからは「印象主義」という言葉で遠まわしに非難されたらしい。1887年、かの「牧神の午後への前奏曲」(1894年)の7年前。そんな時代にはやや前衛だったのかもしれない。でも、現代人(ぼく)の耳にそんな違和感はなく、美しい春の景色が広がる。今、この曲はぼくのCD購入予定リストの最上位です。1曲目、間に合ってよかった~!
 
イベール/寄港地
-第1曲「ローマ~パレルモ」
-第2曲「チェニス~ネフタ」
-第3曲「バレンシア」
 イベールは、ドビュッシーやラヴェルよりも一世代後の人。ヨーロッパの港町(よく知らないけど)を巡る旅行記のような管弦楽曲。この曲との出会いは、忘れもしない1995年3月。学生オーケストラで2つ上の先輩たちが聴かせてくれた卒業演奏。
 
強烈なのは第2曲。静かな怪しいリズムに乗って、オーボエが最初から最後までソロで吹きっぱなし!そこはアラブの世界。チャイコフスキー「くるみ割り人形」の「アラビアの踊り」もそれらしい雰囲気だけど、「寄港地」のオーボエは「ヘビ使い」そのもの。広響の板谷さんの素晴らしいソロが、あの日の卒業演奏の涼子先輩と重なる。
 
第1曲と第3曲では、これでこそ生オーケストラを聴きに来た甲斐があると思わせる立体的でカラフルな大迫力サウンドを堪能。
 
ラヴェル/ラ・ヴァルス
「渦巻く雲の切れ目から、ワルツを踊る何組かの男女が垣間見える。雲が次第に晴れてゆくと、旋回する大勢の人でいっぱいの大広間が現れる。場面はますます明るくなり、フォルテッシモでシャンデリアの光が燦然と輝く。1855年頃のオーストリア帝国の宮廷。」(by作曲者)
 
大好きな曲!「ラ・ヴァルス」(フランス語)とはつまり「ワルツ」ですが、この曲はワルツそのものではなく、ワルツを題材とした交響詩のようなもの(もともとはバレエ)。クライマックスの興奮は狂気と紙一重。
 
この曲も、初めて聴いたのは1994年3月(「寄港地」の前年)、3つ上の先輩たちの卒業演奏。カッコよかったなぁ…。「寄港地」と並んで、思い出の1曲です。
 
休憩を挟んで、後半はドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」「海」。超有名曲ですが、「牧神」はともかく、「海」はいつ聴いてもぼくは何も感じることがない…。
 
さて、広響の演奏。当日のプログラムの感想をまとめて言うと、ムラがあったと思います。広響は第1ヴァイオリン10名という中型編成のオーケストラですが、今回はエキストラを多数動員し、打楽器はティンパニ込みで9名が舞台最後列を陣取って壮観!弦楽器もそれに合わせて数名ずつ増強。フォルテッシモではさすがプロオーケストラと思わせる合奏能力の高さを感じさせる一方、「ラ・ヴァルス」の冒頭はもっと不気味な雰囲気を醸し出してほしかったし、その後、最初のフォルテッシモが炸裂する直前、上質の生クリームがこぼれ落ちるような甘美なサウンドは美しいだけでなく、もっとセクシーであってほしかった。これまで聴いた「スコットランド」やブラ1といったドイツ古典はまとまりの良い演奏で作品の魅力を素直に感じましたが、近代フランスの音楽には異なるセンスが求められるのかもしれない。
 
パスカル・ヴェロ氏の指揮は、つねに両腕と上半身全体を使い、まるで踊っているよう!エレガントな紳士の振る舞いと大道芸人のコミカルさを足して2で割ったような独特の躍動感。「ラ・ヴァルス」も、まるでワルツそのもの。1曲目の「春」は、オーケストレーションが薄くなる箇所では広響の個々のパートの頼りない響きが気になる一方、楽器が少しでも重なってくると確かにフランス音楽らしい香りが生まれてくるのは、誰が指揮してもそうなるものではない(初めて聴いた曲だけど、たぶん)。ファンになりました。次は、「ダフニスとクロエ」を聴いてみたいな。
 
終演後の反省会(?)は、当社得意先の飲食店。昨年オープンし、二人とも通勤ルートの途中にあるので以前から気になっていましたが、これまで機会なく今回初めて入店。和をベースとしたオシャレな内装で料理も満足。
 
たまには、こんな過ごし方もいい。

広島交響楽団の演奏会を聴く。

中四国唯一のプロオーケストラ、広島交響楽団(広響)。
 
前回聴いたのは昨年5月でした。今回はブロ友Y先生のご厚意で同伴させていただくことに。Y先生はピアニストで、次回のステージではモーツァルトのピアノ協奏曲第23番を演奏予定。余暇にはドクターとしてもご活躍されています(ん?逆かな?)。ぼくにとって唯一、県内在住のブロ友さんです。
 
広島交響楽団「もみじ銀行ニューイヤーコンサート」
指揮:藤岡幸夫
【日時】2011年1月8日(土)15時00分開演
【会場】広島市文化交流会館(旧・広島厚生年金会館)
【曲目】
○リスト/ハンガリー狂詩曲第2番
○チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調(ヴァイオリン:川久保賜紀)
○ブラームス/交響曲第1番ハ短調
 
これでもかの名曲プログラム。会場はほぼ満員。指揮の藤岡さんはイギリスで活躍しているイメージですが、プロデビューはなんと広響だったそうです(20数年前)。演奏前、舞台からの挨拶ではそんなエピソードや作曲家同士(チャイコスフキーとブラームス)の知られざる友情(?)秘話、また広響やスポンサー企業名のPRも忘れず、見事なトーク(本当に!)。
 
そして、本番。
 
リスト/ハンガリー狂詩曲第2番
原曲はピアノ曲。リスト自身と弟子ドップラーの管弦楽編曲のほか、ミュラー=ベルクハウスなる人物による管弦楽編曲もあるらしく、当日の使用版は不明ですが、カラヤン指揮ベルリン・フィル等の使用版と同じような気がする。
 
この曲は大きく分けると2部構成。冒頭は弦のユニゾン。おおっ、クラリネットとホルンもユニゾンだったのか!ステージを見ていると、いろんな発見があるな~。でも、管はあくまで隠し味で主体は弦。前半に何度か出てくるクラリネットの超絶技巧のパッセージを吹くのは高尾哲也さん。昨年5月に聴いた演奏会ではウェーバーのコンチェルティーノのソリストを務めた名手。めちゃ巧い!
 
オケのノリは最初、ちょっとぎこちないかな?という気もしましたが、オーボエ・ソロ(板谷由起子さん)に始まる後半では期待通りの大爆発!ここでテンポを大きく動かした藤岡さんの、膝から上をめいっぱい使ったダイナミックな指揮姿はめっちゃカッコイイ!最後の1音まで高度な合奏能力とカラフルなサウンドでプロの底力を見せつけた広響。1曲目からなんてヘビーな演奏会。
 
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調
2002年チャイコフスキー国際コンクール最高位(1位なし2位)の川久保さん登場。広響のサウンドがなぜか1曲目より立派。これはオーケストレーションの問題かもしれない。チャイコフスキーの音は、聴き映えがするんだな。
 
今回の予習では川久保さんの2002年11月のライヴのビデオを見たけど、身ぶりも音楽のつくりも大きくなっている。決して、男まさりの大音量で会場を制圧するタイプではないけど、技術的な安定感はさすが。第1楽章のカデンツァでは超高音を次々とキメて、弦と弓が擦れる音が2階席まで聴こえてくるほど会場が静まり返る。アグレッシブな第3楽章にもびっくり!こんな完成度の高いチャイコをライヴで聴いたら、会場で見かけたジュニアオケのなっちゃん(中学2年)も大いに刺激になったに違いない。
 
ブラームス/交響曲第1番ハ短調
メインは、“ベートーヴェンの第10”。冒頭から堂々たるサウンド。たぶん、広響はリストよりこっちのほうが得意なのでは。弦の人数は12-10-8-8-6(目測)。あまり大きすぎず、コントラファゴットを含む管楽器群からふだん埋もれがちな音が聴こえてくるのがおもしろい。
 
ブラ1の白眉は第2楽章。このオーボエ・ソロは、全てのオーボエ吹きが憧れる(または恐れる)。オーボエの板谷さんは実は「ハンガリー狂詩曲」では1箇所、指が滑っていたけど、ブラ1は絶好調。後半では(90小節~)このメロディーがコンマス(この日はコンミス)とホルンとのユニゾンになるのですが、この三人のユニゾンがもう絶品!この日一番の美しさ。溜め息もの。
 
第4楽章のアルペンホルン(30小節~)も文句なし。こんな巧い人が広響にいたとは!(余談ですが、ここのホルンは実はソロではなく、二人で吹いていることを最近知りました。しかも違う動きをしているのです!スコアをお手持ちの方はぜひご確認を。)アルペンホルンにつづくフルート・ソロ(中村めぐみさん)も、なんだか異常に巧い。この人もソリスト級。いずれ、他のオケに引き抜かれるかもしれない。
 
藤岡さんの指揮はオーソドックス路線だけど、リズム感というか、要所でアクセントをつけていくのが心地いい。第4楽章のコーダではいきなりボルテージを上げて、そのまま突っ走って終わるかと思いきや、しっかり地に足がついたテンポに戻してから締める大人の技。
 
アンコールは「ハンガリー舞曲第1番」。これで終わりかと思ったら、意表をついて「ラデッキー行進曲」も!アンコール前に打楽器が搬入されていたことに気づいていたY先生、さすが!ぼくは見ていませんでした(汗)
 
というわけで、あ~オーケストラ聴いた!!という感じの充実の演奏会でした。
 
終演後はY先生常連(?)の居酒屋で反省会(?)。この店がなんとも個性的。店の看板は目立たず、出入り口はおとな一人が少し身を屈んでやっと入れる程度。これぞ隠れ家。約30席というのもいい。小さな黒板にメニューが書かれているけど、在庫がなくなると次々に消されていく…。ビール、日本酒、絶品つまみ各種を堪能。久々に日本酒を飲んだ…。広響よりも、飲んでる時間のほうが長かったことは言うまでもない。
 
Y先生、たいへんお世話になりました。反省会の反省会も、楽しみにしています!

現役最高齢バンドネオン奏者の90歳記念コンサートを聴く。

≪佐川 峯(さがわ みね)90歳記念コンサート≫ ~オスバルド・プグリエセに捧げる~
http://tango-bandoneone111.blogspot.com/2010/10/90.html
【日時】2010年11月20日(土)16時開演
【会場】ゲバントホール(広島市)
【曲目】
<前半>
1)ジェラシー(嫉妬)
2)コラソン・デ・オロ(黄金の心)
3)ブルー・プレリュード
4)ラ・クンパルシータ(仮装行列)
以上、バンドネオン独奏
5)エル・アマネセル(夜明け)[※1]
6)水色のワルツ
以上、バンドネオン二重奏+“トランペット・ヴァイオリン”
7)パラ・ドス
8)ロス・マレアドス
以上、男女ペアのダンサーによるステージ(音楽はオスバルド・プグリエセ楽団の録音を使用)
<後半>
1)レクエルド(想い出)
2)バンドネオンの誘惑
3)君に
4)オレ・グァパ(ヤー、カワイ子ちゃん)
5)ポエマ
6)センチメント・ガウチョ
7)リンゴ追分
アンコール)ラ・クンパルシータ(仮装行列)[※2]
以上、クインテット(バンドネオン、ヴァイオリン×2、ピアノ、コントラバス)
 
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現役最高齢バンドネオン奏者、佐川 峯さんの90歳記念コンサートを聴きました。佐川先生は1919年(大正8年)生まれ、90歳。特にタンゴの熱心な聴き手でもないぼくはバンドネオン奏者といえばアストル・ピアソラと小松亮太しか知りませんでしたが、本年7月14日付の日経新聞の文化欄にご本人が寄稿された記事には強烈なインパクトを感じました。少し長くなりますが、日経新聞の記事を引用しながら佐川先生の経歴を紹介します。
○昭和のはじめ、こっそり潜り込んだ銀座のダンスホールで初めてバンドネオンの音を聴き、ショックで身体が動かなくなった。まだ15歳だったので外へつまみ出されたが、以来、それまでやっていたアコーディオンに見向きもしなくなった。弾き方は似ていても、バンドネオンの音はアコーディオンと全く違う、深い魅力があった。
○20歳になる1939年に大連に渡る。ダンスホールに所属するバンドに入ったが、一番の下っ端である自分はいつも先輩から「やめろー!」と怒鳴られて手をひっぱたかれた。誰もきちんと教えてくれない。左右にそれぞれ30以上のボタンのあるバンドネオンは、ドレミファだけでも弾き方が幾通りもある。コツコツ勉強した。
○日本に引き揚げると、焼け野原にダンスホールがたくさん生まれていた。東京のバンドに所属し、全国を回り、映画やテレビを含めてたくさんの仕事をした。休日はおおみそかしかなかった。1950年から福岡で25年ほど活動。その後、神戸に移るつもりだったが、途中で立ち寄った広島でクラブのオーナーに誘われ、そのまま居ついてしまった。
○今も使っているバンドネオンは、名手フェデリコ・スコルティカティから譲り受けたもの。まさに本場のアルゼンチンで伝説のマエストロが弾いていた楽器である。彼らマエストロたちの音は、若い者のそれとは違う。その人独自の音を持ち、ゆっくりとした曲でも聴衆を引きずり込む。自分も長い修業の末にようやく「心にしみる音色」などと言ってもらえるようになった。
○昨年暮れに90歳になった。今年はその記念に東京をはじめ国内3都市をコンサートで巡っている。1995年、タンゴの故郷アルゼンチンのブエノスアイレスを初めて訪れ、尊敬する巨匠オスバルト・プグリエセの墓前で「あなたの代わりに90歳の記念コンサートをします」と誓ったからだ。11月まで神戸や広島でコンサートを開くが、それで終わるつもりはない。100歳のコンサートも、絶対にやろうと思っている。
90歳になった今、全国区で脚光を浴びるバンドネオン奏者。楽器は違うけど、ピアニストのミエチスラフ・ホルショフスキー(1892~1993)を連想してみたりする。こんな途方もないキャリアを重ねたマエストロが地元・広島にいたなんて知らなかった。ぜひ聴きたい!!
 
ところが、あいにく当日は大阪で仕事の予定。でも、タンゴのコンサートが満席になるとは思えないので(←偏見)、急ぐこともない、予約の電話を入れたのは当日の4日前。そしたらなんと、まさかの売り切れ!キャンセル待ち5人目。なんという誤算。しかし幸運にも前日の午前中にようやく繰り上げ当選の電話が入り、チケットをゲットできました。つまり、キャンセルが5人も出たということ?ま、それはともかく、行くしかない!!
 
というわけで、大阪での予定を午前中で切り上げて広島に帰り、聴きました!収容人数300名程度の小ホールが見事に満席、それにしても客層の年代が偏りすぎ!!どう見ても自分の両親よりはるかに上の人たちばかり。平均年齢は70歳を下回らないと思われる。前日になってキャンセルが続出した理由がなんとなく分かったような気がした。
 
実はタンゴのライヴを聴くのは初めてです。生バンドネオンも初めて。知らない曲ばかり。え~と、「ジェラシー」「ラ・クンパルシータ」だけ知ってる。他は曲名すら知らないけど、隣の席のおばあさんはどの曲も知ってる様子。つまり、今日の聴衆の大半は往年のタンゴ・ブームの時代をリアルタイムで経験し、おそらく昔から佐川先生の演奏を聴いてきた人たちなんだろうな。会場の雰囲気もなんとなく温かい。
 
ぼくは最前列中央を確保(全席自由)。バンドネオンを間近で見たいし、聴きたい。ほんの2~3m先、まさに目の前に佐川先生の椅子がある。開演時間になるとホールの全照明が落とされ、真っ暗でシーンと静まりかえる中、佐川先生がこれまた静かに一人で登場。誰も拍手しない。佐川先生は真っ暗な会場でいきなり1曲目「ジェラシー」をソロで弾き始める。この曲は、アーサー・フィードラー指揮ボストン・ポップスの録音があるから知ってる。序奏が終わってタンゴが始まるタイミングに合わせて、急に照明がつく。クラシックのコンサートとはだいぶ違うな~!とは言え、照明は1種類。カラフルなスポットライトがグルグル回るなんてことは、ない。基本的には目に優しい照明。落ち着いて音楽に集中できる。
 
佐川先生の4曲独奏の後、愛弟子の若き女性バンドネオン奏者が登場し、二重奏となる。2曲のうち、「エル・アマネセル(夜明け)」は“トランペット・ヴァオリン”(発明者にちなんで“Stroh violin”とも言う)も参加した三重奏。この珍楽器は昔のアルゼンチンの楽団ではよく使われていたらしい。ヴァイオリンの胴体の横に文字通り金管のラッパが付いている!初めて見た。(こんな楽器です→ http://www.youtube.com/watch?v=IkO5y-To3H0
 
前半の最後は若い男女のダンサーが登場し、佐川先生が尊敬するオスバルド・プグリエセ楽団の録音をバックにダンスを2曲(演奏はお休み)。そうか、タンゴはダンスだ。タンゴのダンスを生で見るのは初めて。社交ダンス…とは違う。動きは激しく、ときにアクロバティック。情熱的でセクシー!!
 
後半は、クインテットで7曲。白眉はオスバルド・プグリエセ作曲の「レクエルド(想い出)」。プグリエセは90歳記念コンサートの準備をしているときに亡くなったタンゴの巨匠。佐川先生はプグリエセの墓前で「あなたの代わりに90歳の記念コンサートをします」と誓い、それが今日実現している。そんな思いから、佐川先生は演奏中に感極まって号泣。弾きたくても涙が止まらず、曲の半分くらいはバックの4人だけで演奏が進行していたような。温かい拍手に包まれる会場。プグリエセに対する尊敬の念、思い入れ、タンゴに対する深い愛情、これらをすべて含めて佐川峯ワールドなんだな。感動的なステージでした。
 
それにしても、佐川先生の圧倒的な存在感!バンドネオンの技術的なことはまったく分からないけど、正直、前半の独奏では多少の粗雑さを感じたことも確か。ところが、後半のクインテットは完全に佐川先生の独壇場!いつの間にか、年齢のことはすっかり忘れて演奏に引きずり込まれている自分に気づく。娘や孫のような女性奏者4人を従えて生き生きとリードする佐川先生。カッコよすぎる。
 
当日の曲目は、「ジェラシー」はデンマーク、3曲目の「ブルー・プレリュード」はアメリカのジャズ、有名な「ラ・クンパルシータ」はウルグアイ、「水色のワルツ」「リンゴ追分」は日本の歌謡曲、「バンドネオンの誘惑」「君に」は佐川先生の自作。このように、アルゼンチン・タンゴだけでなく世界の様々な音楽を取り入れた多彩なレパートリー。ところが、ピアソラは1曲もないのです!要するに、佐川先生のベースにあるのはトラディショナルなタンゴなのです。この後、あらためてピアソラの名盤≪タンゴ:ゼロ・アワー≫を聴いてみると、その凄味がより強烈に伝わってくる。“タンゴの革命児”というピアソラの異名がようやく腹に落ちた気がする。
 
でも、今、ぼくが聴きたいのは佐川先生のバンドネオンなのです。しばらくこの世界から抜けられそうにありません。
 
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≪COMO UNA LLAMA 炎のように≫
http://minesagawa.web.fc2.com/disc.html
 
[※1][※2]
この2曲は会場売りしていた佐川先生のレコード≪COMO UNA LLAMA 炎のように≫(1984年録音)の復刻CDRにも収録されていました。これが素晴らしいタンゴ名曲名演集!買ってよかった!!

広島交響楽団の演奏会を聴く。

中四国唯一のプロオーケストラ、広島交響楽団(広響)。
 
広島交響楽団「ロマンティシズムの源流を訪ねて」第5回
指揮:秋山和慶
【日時】2010年5月28日(金)18時45分開演
【会場】アステールプラザ 大ホール
【曲目】
○シューマン/マンフレッド序曲
○ロッシーニ/弦楽のためのソナタ第6番二長調
○ウェーバー/クラリネット小協奏曲変ホ長調 (クラリネット:高尾哲也)
○メンデルスゾーン/交響曲第3番イ短調「スコットランド」
 
広響を聴いたのは、2006年の第9(招待券もらった)以来、2回目。昨年9月に定期演奏会の公開リハーサルを聴きに行ったのを含めても3回目です。だいたい、演奏会にはめったに行きません。ゆうちゃんが出演するものを除くと、年1回程度。気分屋のぼくは演奏会当日にその曲を聴く気分じゃないかもしれないし、平日は仕事の都合もあるし(以上、言い訳)。でも最近、ブロ友さんが地元楽団の定期会員になって演奏会に通っている話を聞いたりしているので、なんだか自分も聴きたくなってきたのでした。
 
今回は定期演奏会ではなく、ディスカバリー・シリーズ「ロマンティシズムの源流を訪ねて」の第5回です。指揮は広響音楽監督・常任指揮者の秋山和慶さん。ゆうちゃんは秋山さんの指揮で弾いたことがあるので、わが家では「秋山先生」です。「秋山さん」とは呼べません。ましてや呼び捨ては論外。ただし、「ケンタッキーのおじさん」の別称は認められています(某広響団員の方がそう呼んでいた)。
 
ディスカバリー・シリーズの会場はアステールプラザの大ホール(約1200席)。1階席と2階席があり、2階席は6列のみ。ぼくは2階席の前から4列目(つまり最後列から3列目)のほぼ中央で聴きました。このホールは何度か来ていますが、2階席は初めて。なんか、高くないか??ステージが小さく見える。ちょっとこわい(実は高所恐怖症)。
 
プログラムを開くと、中に挟まれた演奏会の宣伝チラシと一緒に「お願い」と書かれた紙が1枚。内容は「演奏中は静かにしましょう」「早すぎる拍手やブラボーはやめましょう」等、演奏会を聴く上での基本的なマナー5箇条。主催者側からのブラボー禁止令は初体験。でも、世界中の演奏会で配布してほしいなんて思ってみたりして。
 
さて、本番。
 
シューマン/マンフレッド序曲
知らないなぁ。CD持ってるけど。劇付随音楽の序曲だそうです。ストーリーは省略。2管編成、第1ヴァイオリンが10人+αの中規模オーケストラですが、音が飛んで来ないなぁ…。なんだかロビーのモニターテレビから聴こえてくるような他人事の音。響きがごちゃついているのも気になる。広響、だいじょうぶか?
 
ロッシーニ/弦楽のためのソナタ第6番二長調
なんと、12歳のときの作品。全6曲のうち第1番はFM番組のテーマ曲にも使われていたと思います。広響はディスカバリー・シリーズですでに第1~5番を取り上げているので、このソナタ集は今回が完結編。第6番は3つの楽章のうち、第1・第2楽章はディヴェルティメント風のしゃれた音楽で、明るく屈託がない。第3楽章は“Tempesta(嵐)”ということで、長調だけど疾風怒濤。弾むリズム、流れるようなメロディ。さすが将来のオペラ作曲家と思うのは単なる先入観のせいばかりではなさそう。ロッシーニ・クレッシェンドっぽい(でも控えめな)煽りが出てくるのもおもしろい。

編成はとてもユニーク。第1・第2ヴァイオリン、チェロとコントラバスの弦楽4部(ヴィオラなし)。広響はここでセッティングを変更し、第1・第2ヴァイオリン各8名、チェロ5名、コントラバス3名にスリム化。また、通常は第1・第2ヴァイオリンは隣同士ですが、この曲だけ対向配置にして、チェロが舞台中央、コントラバスはチェロの奥。これはナイスアイディア。両ヴァイオリンが交代でメロディを受け持つ場面がけっこうあるので、視覚的にもその受け渡しがよく分かりました。

秋山先生の指揮はあまり低弦のリズムを強調せず、両ヴァイオリン主体のアプローチでしたが、途中に出てくるチェロ首席のマーティンさんのソロはなかなか素敵でした。演奏後、彼を立たせて拍手を受けさせたのも当然。第3楽章(Tempesta)は、もっと振幅の大きな表現でもよかったのでは。あんまり嵐らしくない。1曲目のシューマンと同様、音が飛んでこないのでそう感じたのかも。
 
ウェーバー/クラリネット小協奏曲変ホ長調
クラリネット吹きには人気のある曲らしく、わが家ではおなじみの1曲(妻が以前よく吹いていた)。3つの部分に分かれていますが、単一楽章で10分弱の小品です(プログラムでは3楽章構成と解説されていたけど、そうなのかな?)。ハ短調の悲劇的な短い序奏のあと、すぐに弱音でクラリネットのソロが入ってきます。ブラボー!(←あ、禁句)
 
ソリストは広響団員の高尾哲也さん。団員名簿を見る限り、広響の管楽器に首席のポジションはないみたい。でも、実質的に首席の方と思います。チラシの写真のまま、この人は笑うことあるんだろうかといった雰囲気。その実力には、まったく驚いてしまった。高音域から低音域まで、またフォルテからピアノまで、芯があり肉付きもある音色。安定した技術。しかも、音のよく通ること!この日初めて、楽器の音がダイレクトに届いてきた。音が飛んでこないのは座席のせいじゃなかったんだ。

演奏後は舞台袖から中学生らしき制服姿の女の子が登場し、大きな黄色い花束を贈呈。娘さんかな。それとも生徒かな。10分足らずの小品で再三再四のカーテンコール。最後は高尾さんも油断していたのか、「まだやるの!?」と言わんばかりに小走りで慌てて(でも無表情のまま)再登場、聴衆の笑いを誘っていました。

広響も大健闘。1曲目のシューマンよりやや小さめの編成ながら、音がしっかり前に飛んでくる。なんと見通しの良い響きであることよ。そうか、シューマンの厚塗りのオーケストレーションが音を混濁させていたんだ。もちろんあれをスッキリ響かせる技量をもった指揮者・楽団もあるかもしれないけど、根本的にスコアが違うような気がする。ディスカバリー。
 
休憩を挟んで、メインプログラム。
 
メンデルスゾーン/交響曲第3番イ短調「スコットランド」
ふだん、ベートーヴェン以外の交響曲はめったに聴かないけど、「スコットランド」は例外。40分という時間があっという間に感じる、お気に入りの1曲。

広響は実力全開。本当にシューマンと同じオーケストラか?冒頭のメロディは明らかにオーボエがリード。オーボエ出身のぼくとしてはこれが心地良い。広響の木管セクションは総じてレベルが高い。ウェーバーでソリストを務めた高尾さんはさすがに降り番でしたが、代わりに(?)一番クラを吹いた方も申し分ない実力。張りきるだろうなぁ。フルートも絶品。
 
秋山先生の指揮は、全体としてはテンポもバランスもまったくオーソドックス。「スコットランド」はこういう曲、というイメージ通りに進行する。オーソドックスというのは無策という意味でなく、各所の強弱やアクセント、カンタービレ等々に的確な指示があってこそ実現できるものだということが秋山先生の指揮ぶりから伝わってくる。特に暖色系の第3楽章では地元楽団であることを忘れて聴き入っている自分に気づく。終演後はさっきと別の女子中学生(たぶん)が登場し、秋山先生に大きな花束。いったい誰なんだ。
 
率直に言うと、大感激とまではいかないけど、日常生活の延長として十分満足。行きつけの料理屋で店主おすすめの一品を味わうような、ささやかな楽しみ。三ツ星でなければ料理屋でないということもない。広響、また聴いてみたいです。次は定期演奏会に行ってみようかな。
 
終演後、ロビーのCD販売コーナーの辺りをウロウロしていたら、地元テレビ局が来ていて、なんと!インタビューされちゃいました!でも、いきなりマイクを向けられても言葉が見つからない
 「今日の演奏はいかがでしたか?」「これからの広響には何を期待しますか?」等々、何てことはない質問を3~4つされたけど、ニコニコ・カメラ目線の余裕とは裏腹に脳内は大混乱。口から出まかせ、ウソ八百。本番の録画はしていなかったと思うけど、ニュース番組向けの取材なのかな。「あのインタビューを受けていた人は誰ですか?」とか、問合せやファンレターが殺到したらどうしよう~(←妄想)
 
カットされてたりして

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