<曲名>
ラプソディ・イン・ブルー(ガーシュウィン)
<演奏>
(1)ジョージ・ガーシュウィン(自動ピアノ)、マイケル・ティルソン・トーマス指揮コロムビア・ジャズ・バンド
(2)ジョージ・ガーシュウィン(自動ピアノ)
(3)ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)、ポール・ホワイトマン楽団
(4)ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)、Nathaniel Shilkret指揮ポール・ホワイトマン楽団
(5)ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)
<録音>
(1)1976年録音(1925年製作のピアノロールを使用)【SONY】
(2)1993年録音(1925年&1927年製作のピアノロールを使用)【NONESUCH】
(3)1924年6月10日録音【Victor原盤/RCA】
(4)1927年4月21日録音【Victor原盤/RCA】
(5)1928年6月11日録音【Columbia原盤/NAXOS Nostalgia】
「ラプソディ・イン・ブルー」の自作自演を5つの録音で聴いてみます。ガーシュウィン(1898~1937)は38歳9ヶ月という若さ(今のぼくとちょうど同じ!)で亡くなったので、それなりの(古い)年代ですが、録音や自動ピアノに自作自演が残っています。
≪GEORGE GERSHWIN plays RHAPSODY IN BLUE≫
ジョージ・ガーシュウィン(自動ピアノ)
マイケル・ティルソン・トーマス指揮コロムビア・ジャズ・バンド
【1976年録音(1925年製作のピアノロールを使用)、SONY】
ガーシュウィンが1925年に弾いたピアノロールに合わせて現代人が共演するという珍企画。録音当時(1976年)、もしガーシュウィンが存命だったとしてもまだ78歳。歴史上の音楽家というほど遠い存在ではなかったはずです。ティルソン・トーマス(1944年生まれ)はガーシュウィンが亡くなった後に生まれた世代ですが、彼のお父さんとおじいちゃんはガーシュウィン本人からピアノのレッスンを受けていたらしい。
彼(=ティルソン・トーマス)は幼い頃から家で、ガーシュウィンのあらゆるジャンルの音楽を、まるで空気のように吸収しながら育ったという。(中略)ティルソン・トーマスはガーシュウィンを“アメリカのヨハン・シュトラウス”と信じて疑わないし、もっとも愛情を注いでいる大作曲家なのである。(出谷 啓)
自動ピアノは、ホテルのロビーとかデパートで見かける、誰もいないのに鍵盤が勝手に動いて演奏するピアノ。この幽霊みたいなピアノに生バンドが合わせるのは骨が折れる仕事だっただろうと思います。しかし!そんな苦労よりも、この演奏の最大のインパクトはスリリングなスピード感です。忙しい現代人の方は2分48秒辺りから1~2分間、聴いてみてください。オーディオが壊れたかと思うような猛烈に速いテンポ!作曲者本人のピアノロールに合わせると、こうなる。
≪GERSHWIN plays GERSHWIN The Piano Rolls≫
ジョージ・ガーシュウィン(自動ピアノ)
【1993年録音(1925年&1927年製作のピアノロール)、NONESUCH】
ガーシュウィンが残したロールはあくまでピアノのソロです。ソロのまま再生して録音したのが(2)です。但し、(1)の録音では1925年製作のロールを使用していますが、(2)は前半が1927年、後半が1925年という2年の隔たりがあるロールを組み合わせています(理由は不明)。(2)は通常はピアノが休んでいる部分も含めて冒頭から最後まで弾き通しで、(1)の録音ではそれを全部使用せず、ピアノが休む部分はロールを休ませています。しかもロールの再生技術が(2)ほどの水準ではなく、こもったような音のピアノが入ったり休んだりするもんだからジャズ・バンドの鮮烈な音と無用に対比されてしまい、ちょっと居心地のわるさを感じます。ジャズ・バンドが輪郭を強調するからテンポの速さが際立つという作用もありそうです。ガーシュウィン本人はまさか半世紀後に自分のロールに合わせてバンドが共演するとは思っていなかったはずで、もしそのつもりがあれば違うテンポで弾いたかもしれません。
≪HISRIC GERSHWIN RECORDINGS≫
ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)、ポール・ホワイトマン楽団
【1924年6月10日(旧録音)、RCA】
【1927年4月21日(再録音)、RCA】
(3)と(4)はピアノロールではなく、文字通り「録音」されたレコード。あちこちカットだらけの短縮版で、おそらく(3)がアコースティック録音、その3年後の(4)が電気録音だと思いますが、録音(または復刻)のクオリティはどちらも現代人にはちょっと苦しい(特に管楽器)。しかし、ポール・ホワイトマン楽団との共演で、特に(3)は初演のわずか4ヵ月後の録音。テンポは現代標準よりやや速いけど、(1)ほどショッキングとは感じません。このジャジーなノリ!これこそオリジナルです。
≪GERSHWIN plays GERSHWIN≫
ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)
【1928年6月11日録音、NAXOS Nostalgia】
(5)もピアノロールではなく「録音」ですが、全曲ではなく短縮版でもなく、「アンダンテ」というタイトルで後半の「ターラーラーラーラララ♪」という部分(これじゃ分からない?
)を約2分半、弾いていて、ロールにはないニュアンスがこの録音では確かに感じられます。5つの録音でぼくが最も好きなのはこれです。全曲または短縮版ということで(1)~(4)の中から1つだけ選ぶなら、総合的には(1)のインパクトを体験しないわけにはいきません。
ちなみに、(1)(3)(4)は通常のオーケストレーションと異なるジャズ・バンド編成の「オリジナル版」です。聴き慣れない方もいるかもしれませんが、「ラプソディ・イン・ブルー」はポール・ホワイトマン楽団のアレンジャーだったグローフェ(作曲家としても有名)によって、もともとジャズ・バンド編成でアレンジされて(第1版)、その後、現在一般的なオーケストラ編成にアレンジされました(第2版)。(1)と(3)(4)は同じジャズ・バンド編成でもちょっと違う部分があるような気がしますが、詳しいことは分かりません(←違いの分からない男)。
アルバムとしての魅力は、文句なしに(2)が最上位です。2~3分くらいのソングナンバーがことごとくカッコいい!これこそガーシュウィンの真骨頂(例えば(2)のアルバム1曲目→ http://www.youtube.com/watch?v=BX9MCyO6smk)。これに比べると「ラプソディ・イン・ブルー」は、彼としてはちょっと背伸びした“大曲”だったのではないかしらん。以前、同じ職場の女の子から「お部屋の片付けをするときにオススメの音楽はありませんか?」とリクエストされたときに(2)のアルバムを貸したらとても喜んでくれました。こういうのを聴くと、これまで聴き慣れたオーケストラ編成の重厚な「ラプソディ・イン・ブルー」はあんまりガーシュウィンらしくない。初演当時、25~6歳で人気絶頂の若者のピアノは、思わず体が動いてしまうような軽快さとノリの良さがなくては!
というわけで、(2)のアルバム(「ラプソディ・イン・ブルー」以外のソングナンバー)が今回の本命。