<曲名>
「チャルダッシュの女王」~幸福は遠くまで追ってはダメ(カールマン)
前回(初演100周年記念)のつづきです。歴史あるブダペスト・オペレッタ劇場の3人のシルヴァ(ハンガリー語版ではシルヴィア)で「幸福は遠くまで追ってはダメ」を聴き比べます。場面の説明は「ウィーンとオーストリア・ファンのためのポータルサイト」(Austria-fan.com)を参照してください。
「チャルダッシュの女王」ことシルヴィアがこのオペレッタの冒頭で歌う「山こそわが心の故郷」(前回参照)にはこんな歌詞があります。
Bist du mein - mußt mein du bleiben, (私をものにしたかったら)
mußt mir deine Seel' verschreiben, (何もかも私に捧げるがいいわ)
muß ich Himmel, dir und Hölle sein! (私はあなたの天国にも地獄にもなる!)
そして、「幸福は遠くまで追ってはダメ」にもこんな歌詞が出てきます。シルヴィアは情熱的で積極的な女性なのです。
Ja, so ein Teufelsweib (ヤァ、こんな魔性の女は)
fängt dich mit Seel' und Leib (あなたを身も心も虜にする)
fliehst du ans End der Welt, (この世の果てまで逃げたって)
sie dich in Banden hält! (しっかりつかんで放さない!)
Ja, so ein kleines Weib, Ja, so ein Weib, Weib, Weib, Weib, (ヤァ、小柄な女だって)
das hat den Teufel, den Teufel hat's im Leib! (そういう女なら肉体に魔性を秘めている!)
Németh Marika
前回紹介の「山こそわが心の故郷」と同じ1961年の舞台映像。衣装を着替えてドレス姿のマリカ。ぼくが特にシビれるのは2回出てくる“Ja”です(1回目は2分29秒~、2回目は4分44秒~)。マリカは吐息まじりだけど、ちっともセクシーじゃない!そこが男心をくすぐるのです。本当はそんなキャラじゃないくせに、ちょっと背伸びして「私って、魔性の女よ。」と大人ぶっている、そこがかわいいのです。ここをいかにも妖艶に歌うのはぼくの好みではない。ダンスのキレはイマイチだけど、ぼくはこの吐息ですべてを許す。
Kalocsai Zsuzsa
時代は下って、カロチャイ・ジュシャ。ツンデレ小悪魔系の彼女がシルヴィアを歌った1999年の来日公演はTV放映され、全国の視聴者(主にぼく)を魅了しました。1つ目の舞台映像は時期不明ですが、来日公演とは演出が変わり、おそらく2000年代の前半。マリカ時代から40年。統制の取れた舞台には隔世の感があります。
2つ目はジュシャが(TV番組の企画で?)ジプシー・バンドと共演した映像。屋外仮設ステージでリラックスして楽しみながら歌うジュシャには大人の女性の余裕が漂います。劇場での最近のジュシャはシルヴィアを卒業し、侯爵夫人の役をレパートリーにしているようです。侯爵夫人はシルヴィアの婚約者の母親で、実は自身も「チャルダッシュの女王」だったという過去を隠している(しかし最後に暴露される)役です。そして、劇場に来る人はみんなジュシャがシルヴィアだったことを知っている。なんて素晴らしいキャリアの重ね方だろう!
Fischl Mónika
ジュシャの後を継いだフィシュル・モーニカもシルヴィア歴はすでに10年以上となり、ベテランの域です。彼女は今年の年末年始に予定されているブダペスト・オペレッタ劇場の来日公演にも参加しますが、すべてガラコンサートで、残念ながらオペレッタの上演は皆無です。これは2009年の舞台映像。彼女のシルヴィアは「女王」と言うより「女王様」です。近寄りがたい。
というわけで、3者3様のシルヴィア。「幸福は遠くまで追ってはダメ」は毎年多くの中学生・高校生によって演奏される鈴木英史さんの吹奏楽編曲「チャルダッシュの女王」セレクションでも大きなウェイトを占めており、この記事が青少年諸君の演奏解釈の一助となることを願います。