2つのヴァイオリンのための協奏曲BWV1043(バッハ)

ゆうちゃんは9歳、小学3年生。昨日は終業式でした。もうすぐ4年生。誰に似たのか、素直で明るく、礼儀正しい。それに、なかなかの美少女です。(←親バカ)
 
ゆうちゃんが初めてヴァイオリンを手にしたのは3歳のときでした。あれから6年。ようやく今年1月にドッペルの両パートが仕上がりました。もっと早く次の曲に進む子もたくさんいます。でも、いいのです。ぼくは1曲1曲じっくり弾き込んでほしいと思っていますし、音楽を一生の趣味とする子に育ってくれたら、それで十分。それ以上の何かを目指すかどうかは、ゆうちゃんがもう少し大きくなってから、自分で考えてほしいと思います。
 
<曲名>
2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043(バッハ)
 
通称「ドッペル」。弦楽器のことを知らない人(ぼく)にはいかにも複雑そうな曲ですが、教則本では意外にも中級程度の扱いです。第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンはスコアを見ないとどっちがどっちか分からないくらい似ています。教則本では先に第二を練習して、その後、別の曲をいくつか挟んで、第一が出てきます。ゆうちゃんによると、第一のほうが音域が高いぶん、難しいそうです。
 
ぼくは以前から、ゆうちゃんが両パートを仕上げたときには、「ひとりドッペル」(二重録音)を残しておきたいと思っていました。そして先月、それはついに実現しました(→ http://www.youtube.com/watch?v=5xHp98UCWCs )。コンクールに出るわけでもない、音大を目指すわけでもない。どこにでもいる子どものレベルですが、ぼくには最高の名演奏です。
 
では、各楽章ごとに、模範演奏とは程遠い、個性的な演奏を紹介。
 
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<演奏>
(1)第1楽章(Swingin' Bach)
古澤巌&葉加瀬太郎(ヴァイオリン)
 
イケてるバッハ!
 
ドッペルのスウィングアレンジにはステファン・グラッペリの先例があります(→ http://www.youtube.com/watch?v=gQZw3nema0Q )。古澤さんはグラッペリと親交があったので、彼のアイディアを拝借したのかもしれません。こんなバッハもわるくない。酒の肴に最適。
 
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(2)第2楽章
フリッツ・クライスラー&エフレム・ジンバリスト(ヴァイオリン)【1915年録音】
 
極甘のバッハ!
 
当時のスター同士、夢の共演。おそらくこの曲の世界初録音。伴奏は弦楽四重奏ですが、これは人件費削減の目的よりも、当時の録音技術を考慮した措置だったのでしょう。また、第2楽章は50小節のうち、この演奏では途中13小節をカット。これも芸術上の目的ではなく、当時のレコードの片面収録可能時間(約5分)に合わせての措置でしょう。カットなしの演奏だと約7分かかりますが、それを5分以内に収めるために、いったいどこをカットしているのか。予想してから聴いてみるのも一興。
 
それはともかくこの演奏!身も心もとろけそうなポルタメント。聴き手が覚えるのは陶酔か、吐き気か。メンゲルベルクも顔負け。
 
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(3)第3楽章
アルノルト・ロゼー&アルマ・ロゼー(ヴァイオリン)【1929年録音】
 
前代未聞のバッハ!
 
アルノルト・ロゼーは戦前、50年以上(!)にわたってウィーン・フィルのコンマスを務めた伝説のヴァイオリニスト。若きクライスラーがウィーン・フィルの入団試験を受けた際、「音楽的に粗野」などの理由で不採用の判定を下したのはこの人だそうです。そんな彼と愛娘アルマ(ちなみにお母さんはマーラーの妹ユスティーネ)による、心温まる父娘共演。
 
と言いたいところですが、この第3楽章!なんと勝手にカデンツァを挿入しています。しかも、2分半に及ぶ長大なカデンツァ。無伴奏のシャコンヌを彷彿とさせる、なんとなくバッハ風なのは最初だけ。だんだん雲行きが怪しくなり、ついに前楽章の回想シーンまで登場するという仰天の展開!それにしてもいったいどこにカデンツァを挿入する余地があるのか。予想してから聴いてみるのも一興。(追記:ヨゼフ・ヘルメスベルガー父によるカデンツァだそうです)
 
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(4)番外編(Double Concerto for Swing Trio)
ギドン・クレーメル&イザベル・ファン・クーレン(ヴァイオリン)、アロイス・ポッシュ(ベース)
http://www.amazon.com/dp/B00000E4TO (試聴できます)
 
「ロッケンハウス・アンコール」からの1曲(Professor Borによる編曲)。これは編曲の域を超えています。パロディーです。第1楽章から第3楽章まで、バッハの原曲を見事に生かしながら4分未満に凝縮した高度なお遊び。特にノリノリの第3楽章は最高!今日の本命。
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フルートと通奏低音のためのソナタBWV1034(バッハ)

生まれたときからわが家はいつも音楽に包まれていたはずですが、幼い頃に聴いた曲はほとんど覚えていません。音そのものには興味があって、スピーカーの中ではこびとのオーケストラが演奏しているんじゃないかと覗き込んだりしていました。
 
ピアノのレッスンで弾く曲は別として、初めて音楽と向き合ったのは忘れもしない小学4年(1984年)の夏休みでした。音楽感想文を書く宿題が出て、父が聴かせてくれたモーツァルトのピアノ協奏曲第17番(それと第15番)が、自分にとって初めて「聴く姿勢」で聴いた音楽でした。
 
次の1曲には学校で出会いました。ぼくが通っていた小学校では4年生から卒業式に出るのですが、6年生が校長先生から卒業証書を授与されている間に流れる音楽。強烈な印象というわけではなかったけど、確実に自分の心に沁み込んできました。翌年の卒業式でまたこの曲に再会することが待ち遠しく、さらにその翌年、自分の卒業式でも同じ曲が使われていました。
 
でも、曲名が分かりません。「先生に教えてもらってレコードを探す」と考えるのはたぶん大人の発想で、当時はただその場で聴けるだけでよかったのです。そんな少年も中学生になると自分から未知の音楽を求めて、近所の図書館から借りたり、毎朝6時のFMを早起きして聴いたりするように。あの卒業式の曲は何だったのか。
 
そして、ついに手がかりをつかむときが来ました。ある日、FMから流れてきたフルートの曲。こ、これは!なんかちょっと違うけど、これは絶対、同じ作曲者だ!
 
その曲名はバッハのロ短調ソナタ(BWV1030)。中学1年(1987年)の秋。いてもたってもいられない。図書館から2枚組のLPを借りて来て、でもわが家のレコードプレーヤーはすでに壊れて処分していたので、友人に懇願してカセットテープにダビングしてもらって…ついに。
 
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<曲名>
フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調BWV1034(バッハ)
 
<演奏>
オーレル・ニコレ(フルート)
カール・リヒター(チェンバロ)、ヨハネス・フィンク(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
【1973年録音、ARCHIV】
 
果たして、小学生のぼくを魅了した卒業式の曲はバッハのホ短調ソナタ(BWV1034)の第1楽章と第3楽章でした(このソナタは緩-急-緩-急の4楽章構成なので、どちらも緩徐楽章)。図書館から借りたLPは卒業式で流れた演奏とは違いましたが、当時、ぼくはすでにリヒターのバッハに心酔し、ニコレも管弦楽組曲第2番(BWV1067)のソロでリヒターと同格の存在だったので、これ以上は望めない組み合わせです。そして偉大なバッハはついに覆面を外してぼくの人生を支配するに至ったのでした。
 
卒業式で聴いて、特に惹かれたのは第3楽章。バッハの緩徐楽章は、ほとんど2オクターブにわたる広い音域の中にたくさんの音符が満ちていく、実に「動的」な音楽です。この点、同時代人ヘンデル…例えば、映画「カストラート」で少ない音符で心を揺さぶる偉大な音楽の象徴として描かれていたアリア(→ https://www.youtube.com/watch?v=t9h7oB0TpLY )と比較すると、資質の違いをより明確に感じます。もちろん、どちらも素晴らしい。
 
大人になって知恵がつくと、作風や楽器編成、調性、演奏時間からおおよそ見当をつけて自力で調べることができるようになりますが、真っ白な状態で「あの1曲」を探すのは大海に浮かぶ宝石ひと粒を探すようなもので、運任せの無謀な作業の末にやっと見つけ出したときの興奮は今となってはもうめったに味わえないものです。
 
このホ短調ソナタはぼくにとって最高の卒業式ソングです。歌じゃないけど。
 
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<演奏>
カール・ボブツィーン(フルート)
マルガレーテ・シャリッツァー(チェンバロ)、セバスティアン・ラトヴィヒ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
【1963年録音、ARCHIV】
https://www.youtube.com/watch?v=kK4RO7x_yUY (14分31秒) 世界初復刻(たぶん)
 
アルヒーフがオーレル・ニコレの10年前にバッハのフルート・ソナタ全集のレコードを製作していたことは、今となってはほとんど忘れられています。ボブツィーン(ボプツィーン、ポプツィーンとも表記されます)はソリストとしての知名度はそれほどでもないけど、バイエルン放送交響楽団の首席奏者としてこの録音の2年後の来日公演にも参加しています。この演奏のことは学生時代にある名曲喫茶で出会った古老が「朴訥とした感じがいいんだ。」と教えてくれて、ずっと心に留めていました。最近になってそのLPと出会い、朴訥としたフルートに耳を傾け、あの老人のことを思い出した。
 
前回更新日:2014年6月8日(ボブツィーン追加)
最終更新日:2015年11月3日

コントラバス協奏曲(クーセヴィツキー)

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クーセヴィツキー?

その名前の音楽家と言えば、セルゲイ・クーセヴィツキー(1874~1951)。ロシア出身で、ボストン交響楽団の常任指揮者を25年も務めた人物です。レナード・バーンスタインは門下の一人。また、同時代の作曲家に多くの作品を委嘱したことでも歴史に名前を残しています。例えば、ラヴェル編曲の「展覧会の絵」、バルトークの「管弦楽のための協奏曲」など。

<曲名>
コントラバス協奏曲嬰ヘ短調(クーセヴィツキー)

そのクーセヴィツキーが作曲したコントラバス協奏曲。これが実に暑苦しくて胸に迫る、グラズノフ路線のロシアン・ロマンなのです!

当盤の解説によると、1905年初演(於/モスクワ)。クーセヴィツキーの指揮者デビューは1908年。ボストン交響楽団の常任に就任したのは1924年。つまり、誰も将来の名指揮者とは知らない、30歳前後の青年の作品というわけです。全3楽章で16分程度。各楽章間に明確な切れ目はなく、グラズノフのヴァイオリン協奏曲のように全曲通して演奏されます。

<演奏>
ゲリー・カー(コントラバス)、Uros Lajovic指揮ベルリン放送交響楽団
【1979年録音、KOCH SCHWANN】
http://www.allmusic.com/album/virtuoso-double-bass-concertos-mw0001352539

第1楽章 http://www.youtube.com/watch?v=KtG7XrX6xtU (5分54秒)
第2楽章 http://www.youtube.com/watch?v=86tNB7MJKeo (6分05秒)
第3楽章 http://www.youtube.com/watch?v=EV2pu_XMpLo (5分31秒)

特に、グリエールばりのメランコリックな第2楽章は、心底、悶絶します。

それにしても、なぜコントラバスなのか?チェロ協奏曲でもいいじゃん。

…そんなことを言ってはいけません。クーセヴィツキーは、もともとコントラバス奏者だったのです。初演のソリストも作曲者自身。後年、自作自演の録音(第2楽章のみ)も残しています(→ http://www.youtube.com/watch?v=1fTexStjP_A )。

現代の名手ゲリー・カーが使用している楽器は1611年製のアマティ。これはクーセヴィツキー未亡人から贈られた遺品だそうです。ひょっとしたら、この2つの録音は同じ楽器が使われているのかも。

ところで、山口百恵の「冬の色」はクーセヴィツキーの協奏曲の第1楽章の第1主題のパクリという疑惑がありますが…

「あなたか~ら(ジャン)、許され~た(ジャン)、口紅の色は~♪」

判定はいかに。

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