中四国唯一のプロオーケストラ、広島交響楽団(広響)。
学生時代はよくコンサートに行きましたが、社会人になってからの10数年は平均すると年1回以下。そんなぼくが最近1年間で広響を聴くのは3回目。ついに定期演奏会にデビュー。人が変わったように再びコンサート通いをするようになったのは、ブロ友さんの影響以外に理由はないと思われます。
今回は、同じ職場で隣の席の女の子(24歳)をお誘いしました。彼女は特にクラシック・ファンではないけど、最近はYouTubeで「くるみ割り人形」を聴いたり、また絵画などの芸術にも関心があると聞いていたので、今回のプログラムこそ聴いてもらいたいと思い、数ヶ月前からお誘いしていたのです。
広島交響楽団第306回定期演奏会
指揮:パスカル・ヴェロ
【日時】2011年2月24日(木)18時45分開演
【会場】広島市文化交流会館(旧・広島厚生年金会館)
【曲目】
○ドビュッシー/交響組曲「春」
○イベール/寄港地
○ラヴェル/ラ・ヴァルス
○ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
○ドビュッシー/海
ご覧の通り、昨年11月の名古屋市民管弦楽団に対抗するかのような(?)オール・フランス・プログラム。指揮のパスカル・ヴェロ氏は仙台フィルの常任。広響には初登場です。
前半は、3曲。
○ドビュッシー/交響組曲「春」
1曲目は、ドビュッシーの「春」。有名曲揃いのプログラムの中、この曲だけ知りません。ドビュッシーの未知の曲は、ぼくにとって「対象外」と等しく、広響の定期は開演時間が早いので、もし急な仕事が入ったら1曲目は捨ててもいいなと思いつつ、幸か不幸か(?)当日は何事もなく定時退社。余裕で間に合いました。
「春」はドビュッシーのローマ留学時代に書かれた、事実上の処女作(だそうです)。2つの楽章から構成。第1曲の冒頭は、フルートとピアノのユニゾン。ほ~、変わってるな。勝手な想像をすると、春の訪れの直前、まだ凍土が残る冷たい空気の中、若芽が少しだけ顔を出したかのような。やがて日差しが暖かくなり、草木が伸び伸びと育っていく。生命力に満ちた春の一場面(あくまで勝手な想像)。そんな感動的な映像を彷彿とさせる。なんて素敵な曲だろう!ぼくはすっかり魅せられてしまいました。彼女もこの曲が一番気に入った様子。第2曲はインパクトがやや弱く、どんな曲だったか思い出せない…。
当初、楽譜の提出を受けたフランス音楽アカデミーからは「印象主義」という言葉で遠まわしに非難されたらしい。1887年、かの「牧神の午後への前奏曲」(1894年)の7年前。そんな時代にはやや前衛だったのかもしれない。でも、現代人(ぼく)の耳にそんな違和感はなく、美しい春の景色が広がる。今、この曲はぼくのCD購入予定リストの最上位です。1曲目、間に合ってよかった~!
○イベール/寄港地
-第1曲「ローマ~パレルモ」
-第2曲「チェニス~ネフタ」
-第3曲「バレンシア」
イベールは、ドビュッシーやラヴェルよりも一世代後の人。ヨーロッパの港町(よく知らないけど)を巡る旅行記のような管弦楽曲。この曲との出会いは、忘れもしない1995年3月。学生オーケストラで2つ上の先輩たちが聴かせてくれた卒業演奏。
強烈なのは第2曲。静かな怪しいリズムに乗って、オーボエが最初から最後までソロで吹きっぱなし!そこはアラブの世界。チャイコフスキー「くるみ割り人形」の「アラビアの踊り」もそれらしい雰囲気だけど、「寄港地」のオーボエは「ヘビ使い」そのもの。広響の板谷さんの素晴らしいソロが、あの日の卒業演奏の涼子先輩と重なる。
第1曲と第3曲では、これでこそ生オーケストラを聴きに来た甲斐があると思わせる立体的でカラフルな大迫力サウンドを堪能。
○ラヴェル/ラ・ヴァルス
「渦巻く雲の切れ目から、ワルツを踊る何組かの男女が垣間見える。雲が次第に晴れてゆくと、旋回する大勢の人でいっぱいの大広間が現れる。場面はますます明るくなり、フォルテッシモでシャンデリアの光が燦然と輝く。1855年頃のオーストリア帝国の宮廷。」(by作曲者)
大好きな曲!「ラ・ヴァルス」(フランス語)とはつまり「ワルツ」ですが、この曲はワルツそのものではなく、ワルツを題材とした交響詩のようなもの(もともとはバレエ)。クライマックスの興奮は狂気と紙一重。
この曲も、初めて聴いたのは1994年3月(「寄港地」の前年)、3つ上の先輩たちの卒業演奏。カッコよかったなぁ…。「寄港地」と並んで、思い出の1曲です。
休憩を挟んで、後半はドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」と「海」。超有名曲ですが、「牧神」はともかく、「海」はいつ聴いてもぼくは何も感じることがない…。
さて、広響の演奏。当日のプログラムの感想をまとめて言うと、ムラがあったと思います。広響は第1ヴァイオリン10名という中型編成のオーケストラですが、今回はエキストラを多数動員し、打楽器はティンパニ込みで9名が舞台最後列を陣取って壮観!弦楽器もそれに合わせて数名ずつ増強。フォルテッシモではさすがプロオーケストラと思わせる合奏能力の高さを感じさせる一方、「ラ・ヴァルス」の冒頭はもっと不気味な雰囲気を醸し出してほしかったし、その後、最初のフォルテッシモが炸裂する直前、上質の生クリームがこぼれ落ちるような甘美なサウンドは美しいだけでなく、もっとセクシーであってほしかった。これまで聴いた「スコットランド」やブラ1といったドイツ古典はまとまりの良い演奏で作品の魅力を素直に感じましたが、近代フランスの音楽には異なるセンスが求められるのかもしれない。
パスカル・ヴェロ氏の指揮は、つねに両腕と上半身全体を使い、まるで踊っているよう!エレガントな紳士の振る舞いと大道芸人のコミカルさを足して2で割ったような独特の躍動感。「ラ・ヴァルス」も、まるでワルツそのもの。1曲目の「春」は、オーケストレーションが薄くなる箇所では広響の個々のパートの頼りない響きが気になる一方、楽器が少しでも重なってくると確かにフランス音楽らしい香りが生まれてくるのは、誰が指揮してもそうなるものではない(初めて聴いた曲だけど、たぶん)。ファンになりました。次は、「ダフニスとクロエ」を聴いてみたいな。
終演後の反省会(?)は、当社得意先の飲食店。昨年オープンし、二人とも通勤ルートの途中にあるので以前から気になっていましたが、これまで機会なく今回初めて入店。和をベースとしたオシャレな内装で料理も満足。
たまには、こんな過ごし方もいい。