ギター五重奏曲第4番「ファンダンゴ」(ボッケリーニ)

 ハイドン(1732~1809)とモーツァルト(1756~1791)は親子ほど歳が離れていましたが、二人は深い友情で結ばれていました。また、ベートーヴェン(1770~1827)はハイドンに師事し、モーツァルトにピアノを聴いてもらったこともありました。
 
 一方、ボッケリーニ(1743~1805)は同時代の有名作曲家同士のエピソードからはカヤの外でまったく影が薄い。イタリアに生まれて後半生はスペインで過ごし、ウィーンの音楽界とはあんまり関わりがなかったのかも。「メヌエット」だけ飛び抜けて有名。てゆーか、これ以外に有名曲はないと言っても過言ではない。
 
 そんな異色の人物が生み出す音楽は、やっぱり異色。
 
<曲名>
ギター五重奏曲第4番ニ長調「ファンダンゴ」G448(ボッケリーニ) 
第1楽章 Pastorale
第2楽章 Allegro maestoso
第3楽章 Grave assai
第4楽章 Fandango
 
 ギター5人ではなく、ギターと弦楽四重奏のための五重奏曲です、念のため。でも、最初からこの編成のために書かれたのでなく、ギターが得意だったというある侯爵の依頼を受けて、旧作の弦楽五重奏曲などから編曲したらしい。ちなみに、弦楽五重奏という編成は弦楽四重奏(ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1)にヴィオラを1つ加える場合が多いですが、ボッケリーニは違います。ヴィオラではなく、チェロが2本になるのです!チェロの名手でもあったボッケリーニにとっては、それが自然な発想だったのかも。あの(唯一?)有名な「メヌエット」も、原曲は弦楽五重奏曲です。
 
 この五重奏曲は最終楽章に置かれた「ファンダンゴ」のためにその副題が付いていますが、第1楽章はロココ趣味100%、最高のディヴェルティメント。陽気な第2楽章もその延長線上。やがて宴もたけなわ、イイ気分で酔っぱらいウトウト眠りかけていると(第3楽章)、急にトントンと肩を叩いて起こされ、スペイン舞曲が始まる!
 
<演奏>
Dejan Ivanovich & Quarteto Lyra【2007年(Live)】
 
 動画は第3楽章と第4楽章のみ。短い第3楽章(0分00秒~)につづいて、第4楽章(1分28秒~)は血も騒ぐファンダンゴ。原曲は弦楽五重奏曲ですが、このファンダンゴは誰が何と言おうとギターでなければならぬ!
 
 でも、ギターだけが主役ではありません。チェロにも見せ場があり(3分15秒~)、やがて弓を置き、なんと打楽器と化す。(5分03秒~)
 
 これが古典派か!?
 
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(Loree愛聴盤)
ペペ・ロメロ(ギター)、Academy of St.Martin in the Fields Chamber Ensemble
【1978年録音、PHILIPS】
(試聴できます)
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8声のソナタ(シャルパンティエ)

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偏愛の1曲。
 
先日、讃岐のFさんがドビュッシーの「聖セバスチャンの殉教」への偏愛ぶりを告白しておられました。一般的知名度の低さにも関わらず、なぜか自分は好きでたまらない「偏愛の1曲」。ずっと音楽を聴いていると、誰しもそんな曲がいくつかあるのではないでしょうか。
 
<曲名>
8声のソナタ H548(シャルパンティエ)
 
マルカントワーヌ・シャルパンティエ(1643頃~1704)は、ルイ14世の寵愛を受けて権勢をふるった同時代人のリュリ(1632~1687)とは対照的に宮廷との関わりをほとんど持たず、教会や貴族に仕えて過ごしました。「シャルパンティエなんて名前も知らない!」という方も、ひょっとしたら彼の音楽は聴いたことがあるかも。毎年1月1日、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの生中継で番組冒頭に流れるテーマ曲は、なんと!シャルパンティエの「テ・デウム」の前奏曲なのです。
 
そんなシャルパンティエの秘曲と言うべき器楽合奏曲。この曲との出会いは、1989年のある休日の昼間に放送されたFM番組。それはバロックから現代に至る室内楽の歴史を俯瞰する特集で、ぼくはこの放送のために堂々たる仮病で同級生と遊ぶ約束していたのをキャンセルし、万全の準備と細心の注意をもって録音に臨んだのであります。
 
そして放送された「8声のソナタ」の、こんこんと湧き出る泉のように柔らかく濁りのない響き。曲の構成や音楽史上の位置づけなんてまるで分かっちゃいない中学生(ぼく)は、冒頭からして陶然。この放送を聴いていなかったら、現在に至るまでこの曲を知る機会があったとも思えない。エアチェックしたカセットは今も手元にあります。
 
<演奏>
チャールズ・メドラム&ロンドン・バロック【1986年録音、harmonia mundi FRANCE】
https://www.youtube.com/watch?v=3yACnsARt38 (19分25秒から始まります)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00C43FBPA (試聴できます)
 
第1曲 Grave
第2曲 Récit de la basse de viole
第3曲 Sarabande
第4曲 Récit de la basse de violon
第5曲 Bourrée
第6曲 Gavotte
第7曲 Gigue
第8曲 Passecaille
第9曲 Chaconne
ポリフォニックあるいはホモフォニックなアンサンブルと、レチタティーヴォと、舞曲とが、交互に現われてくるが、これは、カリッシミのオラトリオが持っていた構想を器楽の面に移したもののようだ…彼はカリッシミの弟子だったのである。(ジャン=フランソワ・パイヤール)
編成は2つのフラウト・トラヴェルソ、2つのヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェロ、テオルボ(リュートの一種)、クラヴサン(チェンバロ)。9つの楽章があり、第2曲~第3曲は低音ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)のソロ。それにつづく第4曲~第5曲は低音ヴァイオリン(つまりチェロ)のソロとなっていて、しかも後者にはより力強い表現を要する曲が用意されています。この対比により、両者が似て非なる楽器であることがよく分かります。
 
通常は終曲たるジーグ(第7曲)につづいて、パッサカイユ(第8曲)とシャコンヌ(第9曲)という、どちらも固執低音をもつ変奏曲が並んで置かれているのもユニーク。このソナタではシャコンヌ(第9曲)が快活な舞曲として全曲を締めている一方、その直前のパッサカイユにおけるトラヴェルソの溜め息が出るような儚い美しさ…。(上の動画では30分19秒から)
 
このCDを探そうと思ったときはすでに廃盤となって入手困難。再発売されることもなく、いったい世界で何枚売れたか分からないレア盤(たぶん)を求めて中古市場に通い、ついに探し当てたのは2008年の暮れ。あの放送から19年が経過していました。
 
これは、ぼくの執念の1曲でもあるのです。

アリア(グルダ)

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名ピアニスト、フリードリヒ・グルダの自作自演。
 
<曲名>
アリア(フリードリヒ・グルダ)
 
1993年11月、オーチャードホールでの来日公演のアンコール。予定していた曲をすべて弾いたあと、グルダが「何か聴きたい曲はある?」と聴衆に投げかけると、客席の誰かが「アリア!」と即応。グルダは「…ぼくのでいいのかな?」と言いつつ、ピアノに向かう。
 
<演奏>
フリードリヒ・グルダ(piano)【1993年ライヴ】
http://www.youtube.com/watch?v=m017xsXZTNc (4分37秒)
 
まるでソナチネアルバムから抜け出してきたような、シンプルで優しい主題。そこに絡む魅惑のトリル。でも、そんな可憐な第一印象に騙されてはいけない。それはすぐに分かる。このアリアはなかなか芯が強く、生命のエネルギーに満ちあふれている。つねに動的で、上のほうへ伸びて行きたくてしょうがない。どんなことがあっても刻みつづけるビートには、強い意志がある。
 
…そんなふうに聴こえないこともない。
 
○写真のCD(グルダのアリアを含む)
<アルバムタイトル>
グルダ・ノン・ストップ
フリードリヒ・グルダ(piano)【1990年録音、SONY】

オーボエと管弦楽のための「花時計」(フランセ)

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<曲名>
オーボエと管弦楽のための「花時計」(フランセ)
 
<演奏>
ラヨス・レンチェス(オーボエ)、ウリ・セーガル指揮シュトゥットガルト放送交響楽団
【1983年録音、CPO】
 
第1曲 「午前3時:毒イチゴ」
第2曲 「午前5時:青いカタナンセ(ルリニガナ)」
第3曲 「午前10時:大輪のアザミ」
第4曲 「正午:アラバーのジャスミン」
第5曲 「午後5時:ベラドンナ(セイヨウハシリドコロ)」(8分57秒~)
第6曲 「午後7時:嘆きのゼラニウム」
第7曲 「午後9時:夜咲くムシトリナデシコ」

カノン(パッヘルベル)

ある日のデート、夜はステーキの専門店へ。
 
シェフ : 味付けは?
彼 : ぼくは塩コショウ。君は?
彼女 : 私、牛肉って食べたことないの。
彼 : ええっ、牛肉食べるの初めてなの?
彼女 : そうなの。シェフにお任せするわ。
 
実はこのシェフ、バターを使ったコッテリ調理が得意で、彼女のステーキにもたっぷりバターを乗せて焼いています。そうとは知らない彼女は、ステーキを食べてこう言いました。
 
彼女 : おいしい!牛肉って、バターみたいな味なのね。
 
<曲名>
カノン(パッヘルベル)
 
「パッヘルベルのカノン」としてあまりにも有名な曲。パッヘルベル(1653~1706)はバッハのお父さんと同じ世代で、北ドイツのブクステフーデに対して南ドイツを代表するオルガニストでした。パッヘルベルはバッハ家と親交があり、バッハの14歳上の兄クリストフはパッヘルベルに師事していたそうです。クリストフが結婚したとき、師匠パッヘルベルもお祝いに来たかもしれない。そのとき、ひょっとしたらバッハ少年もパッヘルベルに会ったかも。当時9歳。
 
バッハは10歳にして両親を亡くし、その後はクリストフ兄さんに引き取られたので、バッハ少年はきっとパッヘルベルの作品を教材として与えられたはず。バッハがパッヘルベルに本当に会ったかどうか分からないけど、間接的にはきっと影響を受けたでしょう、間違いない。
 
前回記事で紹介したヘルムート・ヴァルヒャの引退録音≪バッハ以前のオルガンの巨匠たち≫にもパッヘルベルが2曲収録されています。ブクステフーデに比べると、ぐっと地味な作風ですが、この川がバッハに向かって流れていることを疑いません。(「シャコンヌ ヘ短調」→ https://www.youtube.com/watch?v=APPMsTpHhaY
 
そんなオルガンの巨匠パッヘルベルの最も有名な(…うっかりすると“唯一の有名な”と言いそうになる)作品がオルガン曲でないのは何とも皮肉。「カノン」とは、要するに「カエルの歌」みたいな輪唱の形式です。本当は「カノン」という形式には様々な応用編があるのですが、このカノンはごく単純に3つのパートが2小節遅れで順番に追いかけます。
 
その上声部を支える通奏低音はいわゆる固執低音で、最初の2小節で提示する主題を何の発展もなく最後まで繰り返します。超ラクとも言えるし、拷問とも言える。さて、問題です。通奏低音はこれを何回繰り返すでしょう?
 
しかし、単純なカノンと言ってもこれはなかなか高度な技です。通奏低音は同じ主題(最初の2小節で提示される)をひたすら繰り返すだけ。その上で3つのパートが「カエルの歌」のごとく、しかし延々と、しかも調和を保ったまま、最後の瞬間まで追いかけっこをつづけます。
 
<演奏>
ジャン・フランソワ・パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団
https://www.youtube.com/watch?v=aHlpVez1NQg (6分11秒)
 
パイヤールの十八番。ぼくはこの演奏が大好きです。固執低音の提示(冒頭)は、まるで暖炉のそばでおじいちゃんが孫を抱きながら「むかしむかし…」と語りかけるように優しい声。ヴィオラのピツィカート(原曲にはない)も暖かい。
 
そして第1Vnが入ってくる。2小節遅れて第2Vnが追走。さらに2小節遅れて第3Vn。あとはひたすら追いかけっこ…ではないのです、パイヤールは!最もシビれるのは途中でチェンバロのアドリブ(原曲にはない)を入れているところ。その間もカノンはつづいているのですが、Vnはボリュームを極小まで落としてチェンバロを引き立てます。
 
その他の部分でも3つのパートは対等であることにこだわらず、自分だけ控えめに弾いて他の2パートを引き立てたり、弓を軽く持ったり、テヌートで弾いてみたり、表現の工夫が至るところにあります。そしてエンディングに近づくと、いよいよ思い入れたっぷりにヴィブラートをかけて、挙句の果てにはオクターヴ上げて号泣を迫る。まるで曲全体が一つの大きなクレッシェンドになっているかのような構成です。
 
パイヤールはこの曲を数回録音していて、もっと遅い演奏(約7分)もあります。基本的な解釈は同じですが、一部箇所(第1Vnのパートで示すと31小節~、53小節~)の弾き方を大きく変えていて、パイヤールの工夫の跡が垣間見えます。楽譜のカットはありません。
 
<演奏>
ムジカ・アンティカ・ケルン
https://www.youtube.com/watch?v=l8Jjs36bHd4 (3分07秒)
 
次に、ムジカ・アンティカ・ケルン(略してMAK)。この団体はバロック当時の楽器(またはその復元)を使い、当時の奏法を研究して演奏しています。同じVnでも当時と現代では微妙に(?)違うのです。しかし、今回はその問題には深入りしません。
 
それにしてもなんなんだ、この超高速テンポは!終始控えめなヴィブラート、短いフレージングで躍動感にあふれて3つのVnが対等に追いかけっこを楽しんでいます。カットなしでテンポはパイヤールの倍速。編成も、パイヤールは各パート複数人数の弦楽合奏ですが、MAKは各パート1人ずつの極小人数。何もかも違うカノン。「対位法的なおもしろさ」を基準にするなら、MAKのほうがはるかに上と断言したい。
 
MAKを辛口とすると、パイヤールはまるで甘口のムード音楽。バターをたっぷり乗せて焼いたステーキ。「パッヘルベルのカノン」をパイヤールの演奏で初めて知る人は、きっとこう言うでしょう。
 
「パッヘルベルのカノンって、ロマンチックな曲なのね!」

シャコンヌ(ブクステフーデ)

20歳のバッハを虜にした老巨匠ブクステフーデ。
 
<曲名>
シャコンヌ・ホ短調BuxWV160(ブクステフーデ)
 
「シャコンヌ」とは、固執低音をもつ3拍子の変奏曲。冒頭、ペダルで示される音型に注目。この曲では必ずしも同じ音型が繰り返されるのでなく、荘厳かつ豊かなイマジネーションに支えられた変奏が進む中、途中に出現する大胆な半音階進行は、初めてブクステフーデと出会った中学生(ぼく)を絶句させたのでありました。ブクステフーデはバッハの伝記に登場するから音楽史に名前が残ったのでなく、彼自身の音楽が間違いなく独創的で、魅力的です。
 
(1)オルガン
<演奏>
Rene Saorgin(オルガン)
http://www.youtube.com/watch?v=6xDGV_yL6bo (5分38秒)
 
先ず、オルガンによる演奏。ぼくはこのオルガニストを知りませんが(←調べろよ)、これは十分すぎるほど美しい。
 
イメージ 1
 
≪Dhm 50th Anniversary Box≫
http://www.hmv.co.jp/news/article/805120050/
 
(2)チェンバロ
<演奏>
カプリッチョ・ストラヴァガンテ
https://www.youtube.com/watch?v=5fmp_DQGN-8 (4分00秒)
 
ぼくの大好きなチェンバロ奏者スキップ・センペが主宰する団体の演奏(2台チェンバロ)。ブクステフーデのオルガン曲をチェンバロで演奏することの歴史的正当性は分かりませんが、結果としては素晴らしい!曲も、演奏も、そして楽器の選択も。センペのチェンバロはいつも饒舌スレスレの豊潤なサウンドで、耳の御馳走とはこのこと。【Deutsche Harmonia Mundi】の50周年記念BOXを激安価格につられて購入したまま、家のどこかで眠らせている方は今こそ開封するときです!(このBOXの15枚目)
 
(3)オーケストラ
<演奏>
(指揮者、楽団とも不明)
http://www.youtube.com/watch?v=6BNYOF9mGhc (6分40秒)
 
メキシコの作曲家チャベス(1899~1978)による、いかにも20世紀前半的なセンスの管弦楽編曲。思わずストコフスキーのバッハを連想。そしておそらく、その連想はそんなに間違っていない。ストコフスキーに比べるとやや地味かも。特に、途中の半音階進行のオーケストレーションは控えめすぎてまったくの肩透かし。欲求不満になる。もっと分厚い響きで泣かせてほしかった。しかし、さすがにコーダは期待を裏切らず、ブクステフーデもビックリの誇大妄想的スケールで文句なし!
 
この編曲はエンリケ・バティスの十八番で、2003年のメキシコ州立交響楽団のツアーでも各都市で演奏され、ライヴCDにも収録されています。
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≪バッハ以前のオルガンの巨匠たち≫
ヘルムート・ヴァルヒャ(オルガン)
 
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005MWUA
 
そんなわけで、すっかりブクステフーデに魅せられた貴方におすすめしたいのはヘルムート・ヴァルヒャの引退録音≪バッハ以前のオルガンの巨匠たち≫です。この3枚組(LPは4枚組)のアルバムはブクステフーデをはじめとして、リューベック(1654~1740)、ブルーンス(1665~1697)等々、総勢8名の作曲家による24曲を弾いてバッハ以前のドイツを中心としたオルガン音楽を俯瞰する名企画。このうち、11曲を占めているのがブクステフーデなのです。
 
ヴァルヒャの演奏姿勢はバッハに対するのとまったく同等。バッハが決して突然変異で生まれたのでなく、この歴史があるからバッハが生まれたことを否応なしに理解させられるアルバム。一家に1セット。

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