エスパー魔美とキージェ中尉とスティング

<曲名>
組曲「キージェ中尉」~ロマンス(プロコフィエフ)
(近所の公園にて)
富山くん : 佐倉さん、どうしたの?
魔美ちゃん : あら、富山さん。
富山くん : へえー、追い回されてるの。仕方ないさ、今や君は話題の人だもの。
魔美ちゃん : 冗談じゃないわ。カマイタチ騒ぎなんてもううんざり。
富山くん : どう?うちでレコードでも聴いて気を休めない?
魔美ちゃん : レコードか…たまにはいいわね。
富山くん : えっ、来てくれる!?じゃ、じゃ、じゃあ、急ごう!!気の変わらないうちに。
(富山くんの部屋にて)
富山くん : これなんか、いいんじゃないかな。きれいだし、変化があっておもしろいし。たぶん君も寝ないだろ。プロコフィエフの組曲「キージェ中尉」!!(※)まずはアレグロ「キージェの誕生」から。もともとが映画音楽だから、ストーリーがあるんだよ。
魔美ちゃん : へえー、おもしろいのね。
富山くん : 帝政ロシアのお話なんだ。ある日、気持ちよく昼寝を楽しんでいた皇帝が、大きなクシャミで起こされた。皇帝はカンカンに怒って、犯人は誰かと家来に聞いたんだよね。家来は困っちゃって、キージェ中尉というデタラメの名前を答えた。架空の人物キージェ中尉はシベリヤに流刑。これで事件は片付いたと思ったら…気まぐれな皇帝はキージェ中尉を呼び戻せとか、結婚させてやれとか、勲章を授けるとか、言い出した。ほんの小さなウソが元になって、話はどんどんややこしくなっていくんだよ。
魔美ちゃん : まあ…よく似た話もあるものね。
富山くん : 何が?
魔美ちゃん : いえ、こっちのこと。
富山くん : そのうちに皇帝が、どうしてもキージェに会わせろと言い出したんだ。
魔美ちゃん : まあ、家来たちは困ったでしょうね。それで、どうしたの?
富山くん : 苦し紛れに「キージェは死にました」と答えた。からっぽの棺桶で盛大な葬式がおこなわれたってさ。
(エスパー魔美「うそ×うそ=?」より)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100912/p4
富山くんが魔美ちゃんに聴かせたレコードはフリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団。
<演奏>
クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィル
 
スティング(“ラシアンズ”)
 
“ラシアンズ”の途中に現れるメロディー(1分25秒~、2分31秒~、3分04秒~)に注目。これがなんと!「キージェ中尉」からの引用なのは…なんでだろう~♪
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ダウランド歌曲集/スティング

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<アルバムタイトル>
ラビリンス(Songs from the Labyrinth)【2006年発売、DG】
http://www.hmv.co.jp/news/article/608140037/
 
<曲名>
Come again(ダウランド)
 
<演奏>
スティング(ヴォーカル)、エディン・カラマーゾフ(リュート)
https://www.youtube.com/watch?v=d4EmIPY8yqY (2分43秒)
 
スティングがリュート伴奏で歌うダウランド(1563~1626)の歌曲集。スティングという人はイギリスのロックミュージシャンらしい。まったく知らない。だから、「あのスティングがダウランドを!」みたいな意外性はぼくは感じようがないし、今もスティングがどんな人か知らない(←調べろよ)。ともかくロックシンガーが自分流にダウランドを歌っています。
 
でも、これは決してアイディア勝負の珍企画ではありません。「鮎とビール」のように一見すると接点のないもの同士が出会ったら実は相性が良かった、出会うべくして出会った、そんな組み合わせを「出会いのもの」と言うそうですが(「美味しんぼ」にそう書いてあった)、スティングとダウランドはまさに「出会いのもの」。
 
かつて、音楽の「進歩」を頑なに信じていたストコフスキーは過去と現代の融合に使命感を持ち、バッハのみならずバード(1543頃~1623)やパーセル(1659~1695)の音楽まで大管弦楽に編曲して現代(20世紀前半)の聴衆に聴かせました。もし、ストコフスキーがこんなシンプルでしかも現代的なダウランドを聴いたら何と言っただろう。
 
ダウランドのキーワードを挙げるとしたら、「悲しみ」「嘆き」「孤独」といったところでしょうか。有名な「ラクリメ(流れよ、わが涙)」もそうだし、中にはズバリ、「ダウランドはつねに悲しむ」なんていう曲まであります。いい加減にしてほしい。
 
“Come again”は歌曲集第1巻(First Booke of Songes)の第17曲。歌詞はいつものメランコリックなダウランドだけど、憧れに満ちた曲調は「ラクリメ」以上にこの歌手の声質に合っている気がする。このセンスいいダウランドにはすっかり参ってしまった。ダウランドの歌曲にこんな解釈を受け入れるキャパシティがあるとも思わなかった。
 
「歌曲集」なんて野暮な訳は似合わない。ぼくは、何の先入観もない状態でこの歌がビートルズか何かのメンバーの一人がつくった未発表曲だと言われたら、信じる。
 

 
Come again:
Sweet love doth now invite,
Thy graces that refrain,
To do me due delight,
To see, to hear, to touch, to kiss, to die
With thee again in sweetest sympathy.
 
Come again
That I may cease to mourn,
Through thy unkind disdain:
For now left and forlorn,
I sit, I sigh, I weep, I faint, I die
In deadly pain and endless misery.
 
All the day
The sun that lends me shine,
By frowns do cause me pine,
And feeds me with delay,
Her smiles my springs, that make my joys to grow.
Her frowns the Winters of my woe.
 
All the night
My sleeps are full of dreams,
My eyes are full of streams.
My heart takes no delight…
 
(First Booke of Songes, 1597, no.17)

The Image of Melancholy

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≪ミューズの涙≫
アムステルダム・ルッキ・スターダスト・カルテット&Kees Boeke
【1991年録音、CHANNEL CLASSICS】
老婦人はトレーニング用のジャージの上下に身を包み、読書用の椅子に座り、ジョン・ダウランドの器楽合奏曲『ラクリメ』を聴きながら本を読んでいた。彼女の愛好する曲だった。青豆も何度も聴かされて、そのメロディーを覚えていた。(村上春樹『1Q84』より)
 ダウランド(1563~1626)はイギリスの音楽家。“Flow my tears”(流れよ、わが涙)という歌詞から始まる通称「ラクリメ」(→ http://www.youtube.com/watch?v=blk0cgnNUKE)は当時の大ヒット曲で、ダウランド自身によるリュート・ソロ版(こっちが原曲?)やコンソート編曲版のほか、他の多くの作曲家によって様々な形で編曲され、例によって舞曲としても定番でした。ヒットソングで踊る感覚は400年という年月の隔たりを超えて現代人にも通じると思いませんか。
 
 コンソート(consort)とは、小編成の器楽合奏のことです。特に同属楽器(例えばリコーダー属やヴィオール属)だけで編成された合奏をホール・コンソート(whole consort)と言います。ちなみに、“consort”という単語はふつうの英和辞典にも載っています。コンソートは16~17世紀のイギリスで好まれ、100年以上にわたって多くの作品がつくられました。リコーダーやヴィオール(ガンバ)を演奏する楽しみの一つはソロであり、もう一つはコンソートであると言ってよいほど、この楽器には大切なレパートリーです。
 
<曲名>
The Image of Melancholy(ホルボーン)
 
 ホルボーン(1545頃~1602)は、ダウランドより一世代前の音楽家。ダウランドから「いとも気高いホルボーン」と呼ばれたほど偉大な存在だったらしい。そのホルボーンがダウランドの「ラクリメ」の主題に基づいて作曲した5声のパヴァーヌ。これはヴィオール・コンソートによる演奏です。
 
 冒頭からして「ラクリメ」の音型であることは一目(耳?)瞭然。さらに、一番上のパートから少し遅れてほかのパートも同じ音型で追随し、至るところにこの音型が現われて曲全体を支配しています。
 
 このパヴァーヌは「ラクリメ」からインスピレーションを得ていますが、「ラクリメ」とは別の感情が流れています。ぼくは学生時代、古楽サークルのコンサートのプログラム解説に「タイトルとは裏腹に憂鬱な気分は微塵もなく、ひたすら美しい」と書きましたが、ちょっと若かったかもしれない。今は、微笑んでいる眼にうっすらと浮かぶ涙が見える。
 
 曲全体は大きく3つの部分に分かれていて、第2部(1分36秒~)では下降音階から始まるのに対し、第3部(3分16秒~)ではバスの6小節に及ぶ持続音に支えられて(リコーダーではたいへん苦しい!)ほかの4声部が少しずつ遅れて上昇し(3rd→2nd→1st→4th)、「ラクリメ」の主題も反行形で現れます。ぼくは特定の宗教を信じないけど、まるで順番に天国への階段を上がっていくようで、あまりの美しさに震える瞬間。

Pauls Steeple

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≪The Division Flute≫
花岡 和生(リコーダー)
金子 浩(リュート)、福沢 宏(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
【2002~2003年録音、TROUT RECORDS】
 
<曲名>
Pauls Steeple
 
 1706年にロンドンで出版された≪The Division Flute≫からの1曲。当時は“Flute”(フルート)と言えばリコーダーのこと。“Division”(ディヴィジョン)は変奏曲。つまり、リコーダーのための変奏曲集です。
 
 ディヴィジョンは、だいたい8小節の固執低音(Ground)がひたすら繰り返される上でソロ楽器が変奏を展開します。変奏が進むにつれ音符が細かくなっていく(4分音符→8分音符→16分音符…)ことから、“Divide(分ける)”→“Division”と呼ばれるようになったらしい。“A Division on a Ground”とか、あるいは単に“A Ground”とか、様々な呼び方があります。17世紀から18世紀にかけてイギリスで人気があったジャンルで、多くのディヴィジョンがつくられました。
 
 有名なのは16世紀発祥の俗謡「グリーンスリーヴス」のディヴィジョン(Greensleeves to a Ground)で、これも≪The Division Flute≫に含まれます。ハンス=マルティン・リンデやミカラ・ペトリなど多くのリコーダー奏者が録音し、ぼくが学生時代にオケとかけもちしていた古楽サークルでも定番の1曲でした。
 
 “Pauls Steeple”(セント・ポール大聖堂の尖塔)のディヴィジョンも、たぶん、そういう歌が当時流行っていて、それを主題に借用したのかも(あくまで想像)。元の主題やこのディヴィジョンを作曲したのが誰というのはどうでもいいことで、音楽史の表舞台には登場しないけど、リコーダー吹きにとってディヴィジョンは欠かせないささやかな楽しみです。
 
 “Pauls Steeple”は≪The Division Flute≫の前身と言うべき≪The Division Violin≫(1685年)にも含まれていて(細部はけっこう違います)、さらに古く≪The English Dancing Master≫(1651年)にも含まれていることから長期にわたって人気があったこと、また、“Dancing”、つまり舞曲としても演奏されていたことが窺えます。
 
<演奏>
Barokksolistene, Bjarte Eike and Milos Valent
http://www.youtube.com/watch?v=-0iJOUX2_Ng (3分46秒)
 
 これはヴァイオリンによる演奏。上声部のソロパートを二人で分け合い、1変奏毎に交代で弾くのですが、どちらが先に弾くかジャンケンで決めています(笑)しかも、最初に弾くことになった人が乗り遅れて、伴奏が1クール空回りしてから始まります(笑)伴奏の編成も異様に充実していて、リズムは切れ味鋭く、変奏が進むにつれ熱がこもりテンポも加速。ぼくたちがリコーダーとリュートまたはギターの慎ましい伴奏で吹いていたことを思い出すと、もはや別世界のエキサイティング・ディヴィジョン!

めくるめく官能!スパルタクス(ハチャトゥリヤン)

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<タイトル>
バレエ「スパルタクス」第3幕~アダージョ(ハチャトゥリヤン)
 
ハチャトゥリヤン(1903~1978)と言えば、「剣の舞(つるぎのまい)」。ところが実はこの超有名曲を含むバレエ「ガイーヌ」の上演機会はほとんどなく、バレエの世界でハチャトゥリヤンと言えば「スパルタクス」です。間違いない!
 
<あらすじ>
紀元前ローマ。圧政に苦しむ奴隷たちが立ち上がり、反乱を起こす。スパルタクスは反乱軍の指導者となるが、クラッスス率いるローマ軍に敗れ、壮絶な最期を遂げる。
<出演>
イレク・ムハメドフ(スパルタクス) ←男
リュドミーラ・セメニャーカ(フリギア) ←女
アルギス・ジュライチス指揮ボリショイ劇場管弦楽団【1990年収録、Geneon】
http://www.youtube.com/watch?v=SjVE_YP4gsQ (8分05秒)
 
スパルタクスとその妻(フリギア)の愛のデュエット。
 
早朝のスパルタクス陣営。テントから起きてきたフリギア。平和なひととき。長大にして絶美のオーボエ・ソロ(0分45秒~)につづいて、ヴァイオリン群がオーボエから愛のテーマを受け継ぐ(1分50秒~)。あらすじから想像の通り、「ガイーヌ」に勝るとも劣らない勇壮で激しいリズムのダンスに圧倒されるこのバレエの中で、とろけるように甘く、陶酔ここに極まる最高にロマンチックな場面。分厚いオーケストラのハーモニーに絡む低弦のピツィカートやクラリネットの対旋律に身悶えせずにはいられない。ますます両手両足をめいっぱい広げ、生を謳歌するフリギア。
 
そこへスパスタクスが登場し、デュエットとなる(3分06秒~)。しかし、大人はいきなり激しく求め合うことはしない。焦らしに焦らした末、渦巻くように濃密な時間を唐突に止め(4分59秒~※)、クライマックスに向けて急加速を始める。(※この版ではここにカットがあるので、余計に唐突に感じる)
 
絶頂で高らかに鳴り響くトランペット(5分23秒~)は「愛の勝利」の象徴と信じて疑わない…この時点では。アクロバティックな二人のダンスに目が釘づけ。そして静かに流れる余韻。不協和音さえも美しい(6分17秒~)。やがて悲劇的な終焉を迎えることを知ってか知らずか…。
 
めくるめく官能。

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