「こうもり」第2幕(ヨハン・シュトラウス2世)~ガラ・パフォーマンス

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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィル
【1960年6月録音、DECCA】
 
<曲名>
喜歌劇「こうもり」(ヨハン・シュトラウス2世)【第2幕のガラ・パフォーマンス】
 
一昨年はベートーヴェンの「第9」の「歓喜の歌」をカラヤンが編曲した管弦楽版。昨年はベートーヴェンの未完の「第10」。今年の大晦日はヨハン・シュトラウス2世の「こうもり」で締めます。でも、作曲者のあずかり知らぬガラ・パフォーマンスの場面です。
 
「こうもり」のガラ・パフォーマンスはオペレッタのストーリーとは直接関係ない「余興」です。バレエにも「ディヴェルティスマン」があり、例えば「くるみ割り人形」で「アラビアの踊り」とか「ロシアの踊り」とか延々とつづきますが、あれは作品の中に最初から設定されている場面です。
 
一方、「こうもり」は何でも自由に挿入してよいことになっていて(?)、カラヤン指揮のDECCA盤(1960年録音)では総勢11名のオペラ歌手が「踊り明かそう」(マイ・フェア・レディ)とか「サマータイム」とか、30分以上もかけて次々と10曲も披露しているのです!まさに、余興。
 
<演奏>
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィル【1960年録音、DECCA】
http://www.amazon.co.jp/dp/B000YY66BO
(試聴できます)
 
1)喜歌劇「メリー・ウィドウ」~ヴィリアの歌(レハール)/レナータ・テバルディ
2)ドミノ(ヴォルフ=フェラーリ)/フェルナンド・コレナ
3)ミュージカル「マイ・フェア・レディ」~踊り明かそう(フレデリック・ロウ)/ビルギット・ニルソン
4)パッショーネ(ヴァレンテ)/マリオ・デル・モナコ
5)バスク地方の子守歌(ラヴィラ)/テレサ・ベルガンサ&フェリックス・ラヴィラ(ピアノ)
6)口づけ(アルディーティ)/ジョーン・サザーランド
7)喜歌劇「微笑みの国」~君はわが心のすべて(レハール)/ユッシ・ビョルリンク
8)歌劇「ポーギーとベス」~サマータイム(ガーシュウィン)/レオンタイン・プライス
9)ミュージカル「アニーよ銃をとれ」~なんでもあなたはできる(バーリン)/ジュリエッタ・シミオナート&エットーレ・バスティアニーニ
10)わが夢の都ウィーン(ジーツィンスキー)/リューバ・ヴェリッチ
 
そしてカラヤンはこのDECCA録音と同じ年の大晦日、ウィーン国立歌劇場でもガラ・パフォーマンスを展開します。
 
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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン国立歌劇場
【1960年12月31日録音(Live)、RCA】
 
<演奏>
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン国立歌劇場【1960年12月31日録音(Live)、RCA】
http://www.hmv.co.jp/product/detail/853273
 
1)辻馬車の歌(Gustav Pick)/エーリッヒ・クンツ
2)オ・ソレ・ミオ(ナポリ民謡)/ジュゼッペ・ディ・ステファノ
3)喜歌劇「微笑みの国」~君はわが心のすべて(レハール)/ジュゼッペ・ディ・ステファノ
 
この後もバレエが3曲入り、延々と30分以上も余興がつづきます。フランク役のエーリッヒ・クンツが歌う「辻馬車の歌」のシュランメルのような雰囲気も素敵ですが、何と言ってもディ・ステファノ!DECCA盤のガラ・パフォーマンスには登場しないディ・ステファノを連れて来るという人選が心憎い。彼はこの余興だけのために出演しているのです。
 
そして歌うのが「オ・ソレ・ミオ」。彼のナポリターナはEMIに名盤(1956年録音)があり、そこでも「オ・ソレ・ミオ」を歌っていますが、伴奏のオーケストラがディ・ステファノと張り合って(?)オブリガードで、ときにユニゾンで強奏するもんで、とっても煩わしい。その点、ここでは「この場面の主役はディ・ステファノ」ということを誰もが分かっていて、カラヤンも抑えているからディ・ステファノの声を堪能できるのです。さらにもう1曲、レハールも披露するサービスぶり!観客も大喜び。こんな舞台、生で見たいなぁ。
 
良いお年をお迎えください。
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楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第3幕より(ワーグナー)

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オーケストラに入ることは夢でした。子どもの頃からピアノを習っていたけど、やっぱりオーケストラをやりたい。
 
というわけで、大学入学と同時にオーケストラに入団。木管楽器をどれかと思っていましたが、1学年に各パート2名という採用枠があり、フルートとクラリネットは初心者お断り(=希望者が多かった)。オーボエとファゴットは初心者OKだった(=希望者が少なかった)ので、オーボエを選びました。それから4年、卒業後も市民オーケストラで3年、通算7年活躍(?)しましたが、現在は惜しまれつつ(?)引退し、後進(ゆうちゃん)の指導(楽器違うけど)に専念しています。
 
先日、10数年ぶりに母校のオーケストラの定期演奏会を聴きました。知っている子なんてもう一人もいないけど、指揮者は当時と変わらず(在任40数年)、パンフレットに載っているトレーナーの先生も懐かしい方ばかり。まったく個人的な感傷がジャマをして、演奏はほとんど耳に入らず(後輩たちよ、申し訳ない)。ぼくもかつては、あの舞台にいたんだなぁ。
 
先日のプログラムにはない曲ですが、Loree現役時代の最もマシな録音「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲を聴いてみました。なんと!29小節から短いソロがあります。シェレンベルガー譲りの美音(大ウソ)。それにしても、このオーケストラのまとまりがない音、ダンゴ状の抜けが悪い響き…。あの日、東京芸術劇場に響いた豊潤な音は幻か?自分の耳の幼さが生んだ勘違いか?美化された思い出か?答えは分かっています。
 
では、今日の本題。
 
<曲名>
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第3幕より(ワーグナー)
 
1)第3幕への前奏曲
2)徒弟たちの踊り(第3幕第5場)
3)マイスタージンガーの行進(〃)
 
<演奏>
フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団【1959年録音、RCA】
 
厳格主義者ライナーの威風堂々たるワーグナー。勝負を避けて、第3幕を選びます(汗)
シカゴ交響楽団のなんという巧さ。「第3幕への前奏曲」の、金管・木管が一体となったオルガンのように均質なハーモニー(1分07秒~)。アミノ酸の旨みがたっぷり染み込んだメロウな響きに耳が釘づけ。弦と管の溶け合いも絶妙。深々とした弦の不意打ち(4分23秒~)は反則技。
 
「徒弟たちの踊り」はライナーのイメージ(笑った顔を見たことない)に反して無機的・非人間的な冷たさはなく、夢のある音に心を奪われます。次の「マイスタージンガーの行進」は有名な「第1幕への前奏曲」でもおなじみのテーマ。ライナー/シカゴ響の演奏は圧巻!オーケストラにみなぎる力、自信、誇り、輝かしさ。金管の打ち込み(1分44秒~)の物凄い迫力、エンディングではテンポを大きく落とし、さらにもう一段階落として締めるライナーの解釈は、まさにこうでなくてはならない!
 
オーケストラを聴く醍醐味をイヤというほど味わわせてくれる、メジャーリーガーのようなワーグナー。

記事一覧(第51回~第100回)

【第51回】記事一覧(第1回~第50回)
【第52回】ホワイト・クリスマス
【第53回】三大スター夢の共演!ジョスランの子守歌(ゴダール)
【第54回】交響曲第10番(ベートーヴェン)
【第55回】元祖フックト・オン・クラシックス!芸術家のカドリーユ(ヨハン・シュトラウス2世)
【第56回】春の海(宮城道雄/シュメー編曲)
【第57回】広島交響楽団の演奏会を聴く。
【第58回】ヴァイオリン・ソナタ第4番BWV1017(バッハ)
【第59回】ヴァイオリン・ソナタ第3番BWV1016(バッハ)
【第60回】交響戦艦ショスタコーヴィチ
【第61回】モーツァルトは頭を良くするか -「モーツァルト効果」をめぐる科学とニセ科学-
【第62回】Discopaedia of the Violin(James Creighton)
【第63回】子守歌(フォーレ)
【第64回】マドリガル(シモネッティ)
【第65回】まるでオペラ? オーボエ協奏曲(ベルリーニ)
【第66回】肖像画のカノンBWV1076(バッハ)
【第67回】トッカータとフーガBWV565(バッハ)
【第68回】広島交響楽団の演奏会を聴く。
【第69回】シャコンヌ(ブクステフーデ)
【第70回】カノン(パッヘルベル)
【第71回】オーボエと管弦楽のための「花時計」(フランセ)
【第72回】アリア(グルダ)
【第73回】8声のソナタ(シャルパンティエ)
【第74回】ギター五重奏曲第4番「ファンダンゴ」(ボッケリーニ)
【第75回】めくるめく官能!スパルタクス(ハチャトゥリヤン)
【第76回】Pauls Steeple
【第77回】The Image of Melancholy
【第78回】ダウランド歌曲集/スティング
【第79回】エスパー魔美とキージェ中尉とスティング
【第80回】ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ(シュメルツァー)
【第81回】禁じられた遊び/無伴奏ヴァイオリン編曲版
【第82回】ブギ・ウギ・エチュード(モートン・グールド)
【第83回】魔笛(モーツァルト/ハイデンライヒ編曲)
【第84回】交響曲第4番(ベートーヴェン)
【第85回】アダージェット(マーラー)
【第86回】歌劇「王冠のダイヤモンド」序曲(オーベール)
【第87回】サンタ・ルチア(ナポリ民謡)
【第88回】マイナー・スウィング(ステファン・グラッペリ&ジャンゴ・ラインハルト)
【第89回】ジャンゴ(ジョン・ルイス)
【第90回】たぶんベネズエラのフォークソング
【第91回】自作自演
【第92回】チェンバロ協奏曲第1番BWV1052(バッハ)
【第93回】(欠番)
【第94回】練習曲集(ショパン)
【第95回】オッフェンバッキアーナ(ロザンタール編曲)
【第96回】忘年会とシラグーザとホルストと私
【第97回】喜歌劇「伯爵夫人マリツァ」(カールマン)
【第98回】まるでディズニーランド? バロック・ホーダウン
【第99回】まるでN響アワー? 聖母の御子(カタロニア民謡)
【第100回】マドリガル(シモネッティ)

マドリガル(シモネッティ)

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一昨日はHさんとともにib○tar○w先生のご自宅に伺い、SPレコードを聴かせていただきました。わが家にはSPどころかLPのプレーヤーもありません。SPを、復刻CDでなく、「生」で聴かせていただくのは、今春、奈良在住のMさんのご自宅に伺ったとき以来です。(SPとは、LP登場以前、主に1940年代以前のレコードです)
 
聴かせていただいたSPは、マリー・ホールに始まって、フランツ・フォン・ヴェチェイ、アンリ・マルトー、マヌエル・キロガ、ミッシャ・エルマン、ヨーゼフ・ハシッド…(ヴァイオリンばっかり)。いずれも片面の収録時間が3~4分程度なので、ジョコンダ・デ・ヴィートのバッハの無伴奏のシャコンヌ(約15分)は2枚両面(つまり4面)、ぼくのリクエストでかけていただいたイゾルデ・メンゲスのヘンデルのニ長調ソナタ(ぼくが知る限りこの曲の最も古い録音で、復刻CDはおそらくない)も4つの楽章が各1面、2枚両面にわたって吹き込まれたレコードでした。
 
そして、イヴォンヌ・キュルティ。復刻CDではない、SPのキュルティ!初めて聴きました。ぼくがこのヴァイオリニストを偏愛していること、また、彼女に関する情報はほとんどないことは過去記事に書いた通りです。そもそも、ib○tar○w先生は2年くらい前からキュルティの情報交換をきっかけにお付き合いさせていただくようになった方で、Hさんはib○tar○w先生から紹介していただいた方。お二人に実際にお会いするのは初めてでしたが、わがままリクエストにも快く(?)応えてくださって、SP三昧のひたすら幸せな4時間でした。
 
聴かせていただいたキュルティのうち、ib○tar○w先生所蔵のシューマンの「子守歌」(Berceuse)は復刻CDがなく、≪DISCOPAEDIA OF THE VIOLIN,1889-1971≫にも掲載されていない珍品でしたが、そんな希少価値よりもキュルティのヴァイオリンが絶品!「恍惚」という言葉はこのレコードのために使わなければならない。裏面に入っていたBOLDIなる作曲家の小品(Chanson Bohemienne)も初めて聴きましたが、シューマンのあまりの魅力にすっかり印象が霞んでしまいました。
 
また、Hさん所蔵の「トセッリのセレナータ」「純な告白(飾らぬ打ち明け)」(日本コロムビア盤)も復刻CDがない貴重なレコードで、しかも封入されている解説書はなんとキュルティの顔写真入り!キュルティの写真は2枚しか知られていないというのが業界の定説です(本当です)が、この顔写真はその2枚のどちらでもない未知の写真なのです。盤質も極上のコンディションで、針音はほとんどなく、キュルティ節を堪能しました。
 
そして、モンティの「チャルダッシュ」とシモネッティの「マドリガル」を両面に収めた問題のレコード。何が問題なのか。このレコードの片面にはキュルティの代名詞と言うべき「チャルダッシュ」、その裏面に「マドリガル」が入っているのですが、おそらく、レコードが再プレスされたときに「マドリガル」だけ別の録音に差し替えられているのです!(上の画像はHさん所蔵盤とは異なります)
 
<曲名>
マドリガル(シモネッティ)
 
<演奏>
イヴォンヌ・キュルティ(ヴァイオリン)、G.van.パリス(ピアノ)
【1929年頃録音、Columbia D19041・5290・J704ほか、マトリクス番号L870】
 
当盤【L870】が最初に発売されたレコードで、過去記事で紹介した【WL2549】は同じカタログ番号のマトリクス違いです。この2つが同じ演奏でないことは明らかです。【L870】はピアノに対してヴァイオリンの音量が小さく、弱音器を付けて弾いているようです。また、途中の繰り返しの有無に違いがあり、【WL2549】のほうが演奏時間が長くなっています。いわゆる「別テイク」ではなく、【WL2549】は再プレスの際に何らかの理由で録り直しをした演奏かもしれません。
 
キュルティの演奏はどちらも自由奔放ですが、【WL2549】のほうが二人の合奏が板に付いており、レコード以外にも共演を重ねていたことを想像させます。また、キュルティの弾きぶりも人間的な成熟、母性のようなものを感じます。この数年のうちに私生活上の変化があったことすら想像させます。この新旧両盤を所蔵していらっしゃるHさんには恐れ入りました。Hさんはこの他にもキュルティを数枚お持ちとのこと。またいつか、キュルティに会えることが今から楽しみです。
 
♪画像をアルゼンチン盤からイギリス盤に変更しました。キュルティ(Curti)の名前の綴りが違うのは英語風なのでしょうか、単なる誤記でしょうか。なお、YouTubeの音源は日本盤と思われます。

まるでN響アワー? 聖母の御子(カタロニア民謡)

<曲名>
聖母の御子(カタロニア民謡)
El Noi de la Mare
 
この曲はかつて「N響アワー」のエンディング・テーマに使用されていたので、日本中の大多数の人が聴いたことがあると思います(たぶん)。ぼくはずっと何の曲か知らなかったのですが、つい先日、取引先主催のパーティーに出席したら、ギターのソロでこの曲が演奏され、ようやく曲名を知ったのでありました。
 
<演奏>
アンドレス・セゴビア(ギター)
 
さて、ゆうちゃんのところにサンタクロースは来るのかな。(本当に何も聞いてない)

まるでディズニーランド? バロック・ホーダウン(Jean-Jacques Perrey&Gershon Kingsley)

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ラヴェル、マスネ、ブゾーニ、R・シュトラウス、ショスタコーヴィチ、伊福部昭など、近現代の大作曲家たちのオリジナル・チェンバロ曲を集めた名企画。
 
<アルバムタイトル>
Cembalo Revolution(チェンバロ・レボリューション)
 
<曲名>
バロック・ホーダウン(ジャン=ジャック・ペリー&ガーション・キングスレー)
【オリジナル・チェンバロ版】
 
<演奏>
有橋 淑和(チェンバロ)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00006S2JV
(29曲目に収録。試聴できます)
<バロック・ホーダウン>はペリーとキングスレーのコンビによる2枚目のアルバム「カレイドスコーピック・ヴァリエーションズ」(米Vanguard)の1曲として1967年に発表された。その際は両人によるムーグ・シンセサイザー演奏であったが、チェンバロの音が用いられ、「もし大バッハが現代に生きていたら作ったであろう」世界を再現している。ディズニーでは主旋律のみが知られているが、全曲を通しても夢に満ちて楽しい。最後は鍵盤上を駆け巡り、チェンバロの最高音「ファ」で唐突に終る。この曲をエレクトリカル・パレードのテーマ曲にしたいと希望したのはウォルト・ディズニー本人であったという。(当盤の解説より)
クリスマスソングじゃないけど、なぜかクリスマス気分。

伯爵夫人マリツァ(カールマン)

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今宵はオペレッタ。
 
<曲名>
喜歌劇「伯爵夫人マリツァ」(カールマン)
 
<あらすじ>
裕福で美しい伯爵家の令嬢マリツァは、大勢のしつこい求婚者たちから逃れるため、「ジュパン男爵と婚約する」とウソの発表を新聞に載せる。そしたらなんと、架空の人物のつもりだったのに、実在の同姓同名の男爵が現れてややこしいことに!その後、いろいろあったけど、伯爵タシロと結ばれてハッピーエンド。
<演奏>
アントン・パウリヒ指揮ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団【1961年頃録音(STEREO)、TELDEC】
マリカ・ネーメト(伯爵令嬢マリツァ)
ペーター・ミニヒ(伯爵タシロ)ほか
https://www.youtube.com/watch?v=RUFnSW9bszM (9分53秒)[抜粋]

カールマン(1882~1953)という作曲家は、同時代人にして同じハンガリー出身の「メリー・ウィドウ」で有名なレハール(1870~1948)に比べるとややマイナーな存在で、よほどのクラシック通でも「聴いたことがない」「名前も知らない」という方がいてもぼくは驚かない。日本でカールマンを愛する人には3つのタイプしかなく、オペレッタ好き、チャルダッシュ好き(ぼく)、それと吹奏楽部の中学生・高校生です。

カールマンの音楽の魅力は「チャルダッシュの女王」(1915年)の初演評が端的に言い表しています。
カールマンは常に片足をハンガリーの大地に、片足をウィーンに突っ込んでいる。ハンガリーの大地からはチャールダーシュが生まれ、ウィーンからはウィンナ・ワルツが生まれる。チャールダーシュとウィンナ・ワルツは縦糸と横糸になって織りなされ、情熱的な激しさと洗練された愛らしさ、色彩感あふれる感性豊かなカールマン織りのオペレッタを形作る。(ダス・ノイエ・ヴィーナー・ターゲブラト紙)
「伯爵夫人マリツァ(Gräfin Mariza)」(1924年)は「チャルダッシュの女王」と並ぶカールマンの代表作。最近は両曲とも吹奏楽のメドレーに編曲されて、中学生や高校生の間で人気急上昇の予感です。

当盤は半世紀も前の抜粋録音で、やや荒れた音質ですが、前奏曲からして異様なほど熱い!ちょっとクラシック離れしたセンスでウィーンの香りも吹き飛ぶ濃厚なジプシーテイストはまるで20世紀版「ハンガリー狂詩曲」。復刻CDは「今宵はオペレッタ」というシリーズですが、興奮のあまり眠気も吹っ飛ぶ1枚。
 
<収録曲>
1)Einleitung (導入)
2)War einmal ein reicher Prasser (昔、金持ちのお大尽がいた)
3)Wir singen dir (ぼくたちは君のために歌う)~Juliska; Rosika (ユリスカ、ロジカ)
4)Wenn es Abend wird (夜ともなれば)~Grüß mir mein Wien (わがウィーンよ、ぼくに挨拶を)
5)Höre ich Zigeunergeigen (ジプシーの弾く弦の音が聴こえてくる)
6)Ich bitte, nicht lachen (笑わないでおくれ)
Komm mit nach Varasdin (ヴァラスディンへ一緒においで)
7)Auch ich war einst ein reicher Csárdáskavalier (私もかつては裕福なチャルダッシュの騎士だった)
Komm, Zigan (さあおいで、ツィガン)
8)Finale 1
9)Herrgott, was ist denn heut los (一体全体、今日は何があった?)
Einmal möcht` ich wieder tanzen (いつかまた踊りたいもの)
10)Wenn ich abends schlafen geh (私が床につく夜は)~Ich möchte träumen (夢を見たい)
11)Mein lieber Schatz (私のいとしい人)~Sag ja, mein Lieb, sag ja (はいと言って、はいと)
12)Sonnenschein hüll' dich ein (陽の光が君を包む)~Schwesterlein (妹よ)
13)Zwischenspiel (間奏)
14)Junger Mann (お若い方)~Behüt dich Gott (ごきげんよう)
15)Finale 2
 
「わがウィーンよ、ぼくに挨拶を」は「ウィーンに愛を込めて」「甘く美しいご婦人方よ」等とも表記され、他の曲にも様々な邦訳があります。
 
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Marika Németh
 
前回更新日:2015年12月20日
最終更新日:2019年9月1日

忘年会とシラグーザとホルストと私

先般、文部科学省から要請があり(ウソ)、「クラシックブログのあるべき姿」をテーマとする意見交換会をおこないましたので、謹んでご報告申し上げます。
 
【日時】12月8日(木)19時~
【場所】都内某所
【参加者】Gらごるさん、n先生、Hルコウさん、Hりうちさん、Loree (以上、あいうえお順)
 
ヘビーリスナーのヘビーリスナーによるヘビーリスナーのための忘年会(じゃなかった、意見交換会)。「クラシック」という共通点はあるものの、一部の方を除いて初対面同士。しかも「クラシック」と言っても様々。年間60回を誇るコンサートゴアー、鍵盤の専門家、キョン○ョンの専門家、オペラの専門家、それと、音楽ブログなのに女の子の話に力が入っている人。正直、どうなることかと多少の心配はしましたが、楽観主義者のL氏は次の瞬間には楽しい宴会(じゃなかった、意見交換会)を妄想しておりました
 
というわけで、当日。L氏が幹事にも関わらず道に迷って30分遅刻したのは、実は、事前に文部科学大臣からそのような指示があったからということは、今だから明かせることです。いえ、本当すみません、申し訳ございません(汗)
 
それにしても、Gらごるさんはコンサート疲れのところ無理を押して駆けつけてくださるわ、自己紹介のアトラクションはn先生が準備してくださるわ(詳細はn先生の次回記事に期待)、お店はHルコウさんが予約してくださるわ、Hりうちさんはサプライズでプレゼントを用意してくださるわ、L氏は「名ばかり幹事」でとってもラクチンでございました。いえ、本当、申し訳ございません(汗)
 
しかし!様々な(幹事由来の)ハプニングにも関わらず!初対面同士ということも忘れ、あっという間の3時間。他の場では得がたい時間でした。Hルコウさんには企画の初期段階から全面的にご相談に乗っていただき、本当、Hルコウさんなくしては実現しませんでした。あらためて御礼申し上げます。
 
では、先ずは、Hりうちさんが用意してくださったプレゼントのCDからご紹介。
 
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カルーゾ-~イタリア名曲を歌う
アントニーノ・シラグーザ(テノール)、ヴィンチェンツォ・スカレーラ(ピアノ)
【1999年録音、KING RECORDS】
 
ぼくはシラグーザというテノール歌手のCDをいただきました。初めて名前を知った歌手です。軽やかで繊細、柔らかい声質。ここ最近、Hりうちさんの記事「テノール馬鹿シリーズ」で聴いていたデル・モナコなど往年の名テノールのパンチある声とは対極に近いかもしれません。「ラ・ボエーム」のロドルフォはこんな声で聴いてみたい。スカレーラなる伴奏ピアニストもファンタスティックな音色で、非常に美しい。
 
そして、当夜のメイン企画「不要なCDをみんなで持ち寄ってぐるぐるまわしプレゼント交換」ではn先生ご提供のCDを見事ゲット。
 
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組曲「惑星」、歌劇「どこまでも馬鹿な男」より(ホルスト/作曲者自身による2台ピアノ編曲版)
レン・ヴォースター&ロバート・チェンバーレイン(ピアノ)【1997年録音、NAXOS】
 
こんな編曲があるとは知らなかった(汗)意外と脳内で勝手にオーケストラの音に変換してくれるので違和感がない。でも、これは「オーケストラの代用品」という聴き方よりも、自分でピアノを弾いているつもりになって聴くほうが楽しい。オーケストラでは気づかなかった細かい音符の動きが浮かび上がってきて新鮮(←「火星」と「木星」しか聴いたことない人)。てゆーか、一番すごいのはこのCDを選んできたn先生の選盤眼であることは言うまでもない。
 
ぼくはこの「ぐるぐるまわし交換」はみんなで「ジングルベル」とか歌いながら次々とまわして、ストップした時点でちょうど手元に来たCDをもらうイメージだったんですけど、実際は最初にみんなで出し合って内容の確認が始まり、結局、ドラフト会議で新たな持ち主が決まっていったのでありました。
 
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フルート協奏曲集作品10(ヴィヴァルディ)
フランス・ブリュッヘン(フルート&リコーダー、指揮)、18世紀オーケストラ【1979年録音、RCA】
 
ぼくが「ぐるぐるまわし交換」で提供したのはヴィヴァルディのフルート協奏曲集。白眉は第5番ですが、この演奏はフルート協奏曲(RV434)ではなく、その原曲であるリコーダー協奏曲版(RV442)です(→ http://www.youtube.com/watch?v=mmvdVebZ15I)。特別サービスで推薦書(Loree特製)とスコアのコピーもセット
 
というわけで、とっても楽しい忘年会でした。ありがとうございました!

オッフェンバッキアーナ

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オッフェンバック(1819~1880)と言えばオペレッタ。この作曲家の名前を知らなくても「天国と地獄」は誰でも知っている、間違いない!(それでも知らないと言う方はこちらをどうぞ。→ http://www.youtube.com/watch?v=l1JhXGA_HrA
 
「天国と地獄」「ホフマン物語」をはじめとするオッフェンバックのオペレッタのメロディーをつなぎ合わせてバレエ音楽に仕立てた「パリの喜び」は実は20世紀の他人による編曲作品で、オーケストレーションもオッフェンバックの時代には考えられない見事にロマンチックなサウンドにブラッシュアップされています。編曲者はマニュエル・ロザンタール(1904~2003)。その知られざる続編とも言うべき作品が「オッフェンバッキアーナ」です。
 
<曲名>
オッフェンバッキアーナ(ロザンタール編曲)
 
<演奏>
(1)マニュエル・ロザンタール指揮モンテカルロ・フィル【1996年録音、NAXOS】
(試聴できます。トラック25~28ですが、両サイトとも「ホフマン物語」と誤記されています)
 
(2)マニュエル・ロザンタール指揮パリ国立歌劇場管弦楽団【1959年録音、Ades原盤/Accord】
https://www.youtube.com/watch?v=AymZnddHhUo (12分35秒)[途中まで]
オッフェンバックの演奏は、リズムは小粋に弾んでいなければならず、ブラスは豪快に鳴らなければならず、しかし華麗な中に一抹の哀しみが一筋刷毛で掃いたように流れていなければならない。その哀しみが「シャンゼリゼのモーツァルト」といわれた所以であって、それがなければオッフェンバックにはならない。カラヤンにしてもバーンスタインにしても、どうにもサマにならずジンタじみてしまうのは、この点で満足できないからだ。ロザンタールは、相変わらず、これがオッフェンバックだ、という音を聞かせる。(俵孝太郎「これぞコレクションのよろこび、NO MUSIC, NO LIFE!」/タワレコ「musée」Vol.21、1999年9月発行)
有名曲を含む「パリの喜び」と違って、「オッフェンバッキアーナ」は「青ひげ」「山賊」「鼓手長の娘」「ファヴァール夫人」「キャロット王」「ジェロルスタン女大公殿下」「ヴェル=ヴェル」「パリの生活」という8つのオペレッタをもとにしているらしい。正直、原曲を知っているメロディーは一つも出てこないけど、も~!快感!なんなんだ、このテンションの高さは!この音楽を聴いて「好きでも嫌いでもない」という感想はあり得ない。一度聴き始めたら途中で離れられなくなるか、そうでなければ冒頭の一瞬で拒絶反応が出るか、どちらかしかない。
 
俵孝太郎氏は旧盤(Ades)よりも再録音盤(NAXOS)のほうが「はるかにいい」と書いています。再録音盤はロザンタール92歳、もはやキレもハリもないけど、しみじみとした味わいがある。
 
しかしぼくは旧盤に強烈に惹かれる。いったい、今、世界中のどの指揮者・どの楽団を連れて来たらこんな音が出せるのか。ヘタクソなんてとんでもない!(←誰もそんなこと言ってない)。ロザンタールの指揮も、弦も、木管も、金管も、打楽器も、みんな最高のセンスです。
 
もし、レコードやCDを「音楽の缶詰め」と嘲笑する人がいるなら、旧盤を聴いてほしい。これは1950年代のパリの空気の缶詰め。パリなんて行ったことないけど間違いない!
 
最終更新日:2015年12月20日

練習曲集(ショパン)

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雨音はショパンの調べ。肌寒い冬の休日の午後、外は雨。暖かいリビングルームでコーヒーを飲みながら、ピヒト=アクセンフェルトのショパンを聴く(…と妄想しながら、ネットカフェで記事を書く)。
 
<曲名>
練習曲集(ショパン)
 
<演奏>
エディット・ピヒト=アクセンフェルト(ピアノ)【1975年録音、RCA】
http://tower.jp/item/703961/ショパン:-24の練習曲集-OP-10、-25
そんなある時、ひょんなことからエディット・ピヒト=アクセンフェルトが演奏したショパンの「練習曲集」の話になった。その時先生が頭をかきながら「いやあ、西条卓夫、一生の不覚」という言葉を口にされたので、私はびっくりした。先生は「もっと早くピヒト=アクセンフェルト盤が発売されていたなら、ポリーニ盤など推薦にしなかったのに、無念だ」と仰った。私はポリーニ盤を最初から余り好きではなかったけれど、一般的な評価は高い盤だし、それはそんなに気にするようなことではないように思えた。しかし、先生は最愛の「練習曲作品10の6」において、ピヒト=アクセンフェルトが示した主旋律にまとわりつく装飾フレーズの妖しげな美しさに魅せられ、それ以外のものは推薦にしたくないという気持ちで一杯だったのだろう。(谷戸基岩「クラシック“ローカル線”の旅~私をレコード蒐集の底なし沼へ導いたLPとの出会い」:音楽之友社「別冊レコード芸術」SUMMER 1999より)
ピアノに疎いぼくはショパンをほとんど聴きませんが、これは別格の1枚。正直、ポリーニ盤は聴いていません。チェンバロ奏者として高名なピヒト=アクセンフェルト(1914~2001)は、ルドルフ・ゼルキンやアルベルト・シュヴァイツァーに師事し、第3回ショパンコンクール(1937年)で第6位入賞の経歴を持つピアニストでもありました。
 
当盤は谷戸先生が「別冊レコード芸術」で紹介された当時(1999年)、未CD化でしたが、その2年後にようやく新星堂のシリーズで初CD化。ライナーノートを書かれた谷戸先生のご尽力があったのかもしれません。
 
ぼくが特に惹かれるのは作品25-1(変イ長調)です。この曲は「牧童」や「エオリアンハープ」とも呼ばれますが、そんな俗称は忘れたい。分散和音から浮かび上がってくる主旋律の揺れ、絶妙なルバート、湖に吸い込まれた音符が水面に静かに広げていく波紋(0分45秒~0分51秒にかけて)、眩いきらめき(2分12秒~)、最後の瞬間の充足感(2分27秒~)まで、この小品の隅々まで慈愛に満ちたニュアンス、懐の深さに言葉を失います。このように書いているけど、聴きおわると、ため息しか出ないのです。
 
「この曲はエチュードというよりは詩である。」
(ロベルト・シューマンの作品25-1に対する言葉)

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Author:violin20090809
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