シャコンヌ(ヴィターリ)/リチャード・ヨンジェ・オニール

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<曲名>
シャコンヌ(ヴィターリ)
 
<演奏>
リチャード・ヨンジェ・オニール(ヴィオラ/Giovanni Tononi製作,1699年
Ulrich Wolff(ヴィオローネ)
Leon Berben(チェンバロ)
「アルテ・ムジーク・ケルン」のメンバー
【2008年録音、韓国ARCHIV】
http://tower.jp/item/2723585/Mysterioso
http://www.youtube.com/watch?v=PTLIs3jNkLo (11分48秒)
<アルバムタイトル>
Mysterioso
<アルバム収録曲>
ヴィオラ協奏曲(テレマン)/「ラクリメ」5声コンソート版ほか(ダウランド)/シャコンヌ(ヴィターリ)/カノン(パッヘルベル)/ラ・フォリア(コレッリ)/パッサカリア(ヘンデル~ハルヴォルセン)/パッサカリア(ビーバー)
異色のアルバムです。韓国系アメリカ人ヴィオラ奏者リチャード・ヨンジェ・オニール(略してヨンジェ)と、「ムジカ・アンティカ・ケルン」(略してMAK)の出身メンバーが中心のピリオドアンサンブル「アルテ・ムジーク・ケルン」(略してAMK。ややこしい!)の共演。この録音でヨンジェは自分のヴィオラにガット弦を張ってバロック弓を使い、ヴィターリ、コレッリ、ビーバーのヴァイオリン曲を弾く!パッヘルベルのカノン(MAK直伝の超高速カノン)も、3本のヴィオラと通奏低音です。さらに、韓流スターばりにポーズをキメたヨンジェの一人写真が満載(合計18カット)の豪華ブックレット!
 
ぼくはヨンジェのことを当盤で初めて知ったのですが、彼のお母さんが戦争孤児で養女としてアメリカに渡ったことなど、一家の物語は2005年に韓国KBSテレビで取り上げられ、さらにエッセイも出版され、人気沸騰となったらしい。こういうマーケティングは日本でもよくあります。豪華ブックレットの謎が解けた気がする。
 
ヴィオラによる「ヴィターリのシャコンヌ」はHartmut Lindemannも録音していますが、Lindemannはピアノ伴奏でシャルリエ系の編曲版、ヨンジェはヴィオローネとチェンバロの伴奏でドレスデンの手稿譜に基づくオリジナル版(過去記事で紹介した桐山建志さんなどの演奏と同じ)。ヨンジェがオリジナル版を弾いているのは、アルバムのコンセプトを考えれば自然なことです。
 
しかし、ヨンジェのアプローチは曲によってカメレオンのように変わります。テレマンの協奏曲をAMKのスタイルに合わせて(?)フレーズを短く切って弾く一方、ヴィターリでは息の長いフレーズを流麗に弾く。おそらく後者が彼本来のスタイルではないでしょうか。古楽とかけ離れたハルヴォルセンを同じアルバムに入れるセンスにも、彼のロマンチックな資質が見え隠れします。
 
また、ヴィオラの音域はヴァイオリンよりも5度低いので、2人とも原調(ト短調)から5度下げてハ短調で弾いています。ヨンジェは通奏低音にチェロではなくヴィオローネ(コントラバスのような古楽器)を使っていて、低音志向に輪をかけますが、音域の低さと表現の深さは別問題です。ヨンジェのヴィターリは豪華ブックレットと同じ世界観でひたすら美麗。それはいいけど、「ヨンジェ写真集」は微妙~
 
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「ヴィターリのシャコンヌ」の正体

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<アルバムタイトル>
「ヴィターリのシャコンヌ」を、作曲したのは…?
~T・A・ヴィターリとG.B.ヴィターリ 北イタリアのバロック弦楽芸術~
 
<曲名>
トマゾ・ヴィタリーノの変奏曲(通称「ヴィターリのシャコンヌ」)
 
<演奏>
アンサンブル・クレマチス
ステファニー・ド・ファイー(ヴァイオリン/ジョヴァンニ・パオロ・マッジーニ製作,1620年)
リオネル・デミュール(オルガン/ベルギー・ジュディンヌ聖母教会の大オルガン)
【2012年8月録音、RICERCAR】
 
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Stephanie de Failly
 
ここ最近、これほど発売を心待ちにしていた新譜アルバムはありませんでした。日本語解説付きの国内盤が今年4月19日発売と告知されていながら発売延期を繰り返し、3ヶ月遅れでようやく入荷。アルバムタイトルは当初の案内では≪「ヴィターリのシャコンヌ」の正体≫でしたが、ちょっと変わったみたいです。
 
通称「ヴィターリのシャコンヌ」には大別して3つのまったく異なる版があることは以前にも書きました。この曲は19世紀のヴァイオリニストで、メンコンの初演者としても有名なフェルディナント・ダーヴィト(1810~1873)の紹介によって知られるようになり、そのダーヴィト版をフランスの音楽学者レオポルド・シャルリエ(1867~1936)がさらにドラマチックに編曲したものが現在世界中のヴァイオリニストによって演奏されています。ゆうちゃんも年内にはこの曲を弾くことになると思いますが、それもシャルリエ版です。
 
ところが、ダーヴィトが参照した手稿譜(ヴィターリの自筆譜ではない)の来歴がハッキリしないことと、とてもバロックとは信じられない大胆な転調を駆使した作風ゆえに「後世の贋作ではないか」と疑う人もいて、「現在ではヴィターリの真作ではないと結論づけられている。」と断定的に書く人もいるくらいです。そもそも、この手稿譜がいつの時代に書かれたのか(18世紀か19世紀か)もハッキリせず、そんなことは紙とかインクを科学的に解析すれば判明するんじゃないかと思うのですが、寡聞にしてこれまでその鑑定がおこなわれたという話を聞きません。(この手稿譜は次のサイトで参照できます→ http://imslp.org/wiki/Chaconne_(Vitali,_Tomaso_Antonio)
 
そこでこの新譜のアルバムですが、率直な感想としてはガッカリと好感が半々です。ガッカリの最大の理由は、新たな物証が提示されていないことです。「ヴィターリのシャコンヌ」の真贋論争のポイントは、突き詰めると、「ダーヴィトが参照した手稿譜の素性」です。ぼくは、この手稿譜よりも古い新たな手稿譜(例えばヴィターリの自筆譜)が発見されたのかと(勝手に)期待したのですが、そうではなく、当盤が明らかにしたのは、すでに知られているこの手稿譜が「1710年から1730年の間のどこか」(つまりヴィターリと同時代)に、「リンダーという名前の、18世紀前半にドレスデン宮廷楽団で活躍していた音楽家」によって書き留められたものだったということです。
 
ところが、この重要な新事実がいかなる経緯と手法で明らかになったのか、一切の説明がない。あとは、偉大な父ジョヴァンニ・バティスタ・ヴィターリ(1632~1692)の影響とか、時代の文脈といった状況証拠から、大胆な転調技法が決して時代と矛盾しないことを指摘し、「ヴィターリのシャコンヌ」の作曲者がトマゾ・アントニオ・ヴィターリである可能性を間接的に追究していく(これはこれで一読に値する)。
 
また、多くの現代人にとって「ヴィターリのシャコンヌ」とは華麗なシャルリエ版であるはずです。しかし、当盤の解説書にはシャルリエについては名前も出てきません。シャルリエ版がバロックとかけ離れていることは明らかなので、現代人に誤解なく説明するには、「ヴィターリが作曲したと思われるシャコンヌは、18世紀前半(つまりヴィターリと同時代)にリンダーという人物が書いた手稿譜を通じて後世に伝わり、それを19世紀後半にダーヴィトが発見し、編曲・出版した。現在広く知られているのは、ダーヴィト版をさらに大胆華麗に編曲したシャルリエ版である。」と言わなければなりません。
 
当盤の長所は、演奏の美しさです。バロック・ヴァイオリンですが、トゲトゲしいピリオドスタイルではないので、アンチピリオドの方にもあまり抵抗がないと思います。また、オリジナル版に基づいているはずですが、冒頭からして重音に変更したり、装飾も積極的でエンディングに短いカデンツァを挿入したり、必ずしも楽譜に忠実ではありません。オルガンも、ダーヴィト版かと錯覚するような肉厚のハーモニーとか右手の彩りとか、要するに、手稿譜の姿をありのままに伝えることよりも、近現代の編曲版になじんだ耳にも違和感の少ない演奏を志向しているようです。同じオリジナル版でも、これまで紹介した桐山建志さんの清楚な演奏やエミリーの血も涙もない演奏に比べるとずいぶんロマンチックです。3者3様で、どれも捨てがたい(←選べない人)。

映画「ベニー・グッドマン物語」

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<タイトル>
映画「ベニー・グッドマン物語」
 
【公開】1955年(アメリカ)
【監督】バレンタイン・デイヴィス
【キャスト】スティーヴ・アレン(ベニー・グッドマン役)、ライオネル・ハンプトン(本人役)、テディ・ウィルソン(本人役)、ジーン・クルーパ(本人役)、ドナ・リード(マネージャーの妹(ベニーの彼女)役)ほか
 
ベニー・グッドマン(1909~1986)を知ったきっかけは、中学生のときに音楽の授業で観たこの映画でした。授業では、ほかにも「グレン・ミラー物語」「サウンド・オブ・ミュージック」「アマデウス」など、いろんな映画を観ました。授業1コマは50分ですから、1本の映画を3~4回に分けて観るのですが、ずいぶん多くのコマ数を映画のために使っていたものです。
 
当時のぼくは筋金入りのバロック少年だったので、ベニー・グッドマンとかグレン・ミラーとか、あんまり興味なかったと思うのですが、高校生になってたまたま乗った飛行機の中でスウィング特集の番組を聴いて、急に目覚めました。振り返ると、中学の授業で映画を観たときに種は蒔かれていたのかもしれません。
 
ベニー・グッドマンもグレン・ミラーもスウィングの代名詞ですが、先に映画が制作されたのは「グレン・ミラー物語」(1953年)のほうで、「ベニー・グッドマン物語」はグレンの映画の成功を受けて、映画会社が狙った二匹目のドジョウだったようです。
 
この2つの映画の大きな違いは、グレンが飛行機事故のために若くして他界し、すでに故人だったのに対し、ベニーはバリバリの現役だったので、ベニー役は別人が演じているものの、演奏はすべてベニー本人の録り下ろしで、音楽の授業でY先生もそれを嬉しそうに語っていました。ちなみに、これは伝記映画ではなく、事実と創作を交えたエンターテインメントとして楽しむべきと思います。
 
<曲名>
アヴァロン
 
ジャズのスタンダード曲「アヴァロン」(1920年発表)は、プッチーニの歌劇「トスカ」(1900年初演)のアリア「星は光りぬ」の盗作疑惑があったそうです。でも、その指摘はかなり逞しい想像力の産物ではないかしらん。むしろ、タンゴのスタンダード曲「ジェラシー」(1925年発表)と「星は光りぬ」の激似ぶりを指摘した某美人ブロ友Mさんが慧眼です。(過去記事「ジェラシー」のコメント欄参照)
 
<演奏>
ベニー・グッドマン(クラリネット)、ライオネル・ハンプトン(ヴィブラフォン)
テディ・ウィルソン(ピアノ)、ジーン・クルーパ(ドラムス)
http://www.youtube.com/watch?v=OuCHEeZ5tsc (5分32秒) 演奏は2分06秒から
【映画「ベニー・グッドマン物語」より】
画面に登場しているベニー役は別人ですが、演奏はベニー本人です。ベニー以外の3人は画面の登場も演奏も本人。
 
ベニーと仲間たちが演奏旅行先でたまたま入った店でヴィブラフォン奏者のライオネル・ハンプトンと出会う場面。店主が余興で演奏するファンタスティックなソロに聴き入り、自然に指が反応するベニー。同伴の彼女がそんな彼の様子に気づいて飛び入り参加を促すと、テディ・ウィルソンとジーン・クルーパも加わって即興カルテットが始まる。こんな即興ができたらカッコいいし、楽しいだろうなぁ!
 
この出会いのエピソードは創作ですが、映画なんだから、それをとやかく言うのは野暮です。演奏シーンの映像と音声も、たぶん別録りの口パク演技だろうと分かっていても、スウィング全盛期の熱気を追体験しているようで胸がときめきます。
 
<演奏>
ベニー・グッドマン(クラリネット)、ライオネル・ハンプトン(ヴィブラフォン)
テディ・ウィルソン(ピアノ)、ジーン・クルーパ(ドラムス)
【1938年1月16日録音、SONY】
http://www.youtube.com/watch?v=6AxjwxpZgVY (4分18秒)
 
映画のクライマックスとなっているカーネギーホールでのコンサートは、1938年1月16日に実際におこなわれました。クラシック以外のミュージシャンがこのホールで演奏するのは史上初、また、白人と黒人の混成バンドが音楽以外の理由で批判されることもあった時代、いかにハードルの高い企画だったことか。
 
ビッグバンドと小編成アンサンブルをほどよく配置したプログラムで、人気もモチベーションも絶頂のスタープレーヤーたちの熱演は、2枚組のライヴ盤で現在も聴くことができます。「アヴァロン」は映画と同じメンバーのカルテット。映画制作時よりも17歳若く、4人とも20代です。ピアノ~クラリネット~ヴィブラフォンの順に、まるでカデンツァ・リレーのように披露する即興、それを支えるキレのいいドラムス。みんな、音が輝いています。
 
<演奏>
ベニー・グッドマン(クラリネット)、ライオネル・ハンプトン(ヴィブラフォン)
テディ・ウィルソン(ピアノ)、ジーン・クルーパ(ドラムス)、見知らぬ人(ベース)
【1970年代初頭?】
http://www.youtube.com/watch?v=wbU4zwhOGVg (5分35秒)
 
同じメンバーに見知らぬベーシストを加えたクインテット。収録年代は不明ですが、4人の中ではジーン・クルーパが最も早く1973年に亡くなっていること、また、これがカラー映像であることから1970年代の初頭だと思います。カーネギー・ライヴから30年以上の年月が過ぎて、若かりし日のメンバーでおなじみの「アヴァロン」を演奏する彼らの心境はいかばかり。すっかり肩の力が抜けてリラックスしたプレイは年季の賜物。
 
77歳まで生きたベニーが45歳のときに映画が制作され、そのクライマックスが28歳のときのコンサートということには複雑な思いも多少あります。でも、ベニーたちのカッコよさは白髪になっても変わらない。間違いない!

ラプソディ・イン・ブルー(ガーシュウィン)

<曲名>
ラプソディ・イン・ブルー(ガーシュウィン)
 
<演奏>
(1)ジョージ・ガーシュウィン(自動ピアノ)、マイケル・ティルソン・トーマス指揮コロムビア・ジャズ・バンド
(2)ジョージ・ガーシュウィン(自動ピアノ)
(3)ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)、ポール・ホワイトマン楽団
(4)ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)、Nathaniel Shilkret指揮ポール・ホワイトマン楽団
(5)ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)
 
<録音>
(1)1976年録音(1925年製作のピアノロールを使用)【SONY】
(2)1993年録音(1925年&1927年製作のピアノロールを使用)【NONESUCH】
(3)1924年6月10日録音【Victor原盤/RCA】
(4)1927年4月21日録音【Victor原盤/RCA】
(5)1928年6月11日録音【Columbia原盤/NAXOS Nostalgia】
 
「ラプソディ・イン・ブルー」の自作自演を5つの録音で聴いてみます。ガーシュウィン(1898~1937)は38歳9ヶ月という若さ(今のぼくとちょうど同じ!)で亡くなったので、それなりの(古い)年代ですが、録音や自動ピアノに自作自演が残っています。
 
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≪GEORGE GERSHWIN plays RHAPSODY IN BLUE≫
ジョージ・ガーシュウィン(自動ピアノ)
マイケル・ティルソン・トーマス指揮コロムビア・ジャズ・バンド
【1976年録音(1925年製作のピアノロールを使用)、SONY】
 
ガーシュウィンが1925年に弾いたピアノロールに合わせて現代人が共演するという珍企画。録音当時(1976年)、もしガーシュウィンが存命だったとしてもまだ78歳。歴史上の音楽家というほど遠い存在ではなかったはずです。ティルソン・トーマス(1944年生まれ)はガーシュウィンが亡くなった後に生まれた世代ですが、彼のお父さんとおじいちゃんはガーシュウィン本人からピアノのレッスンを受けていたらしい。
 彼(=ティルソン・トーマス)は幼い頃から家で、ガーシュウィンのあらゆるジャンルの音楽を、まるで空気のように吸収しながら育ったという。(中略)ティルソン・トーマスはガーシュウィンを“アメリカのヨハン・シュトラウス”と信じて疑わないし、もっとも愛情を注いでいる大作曲家なのである。(出谷 啓)
自動ピアノは、ホテルのロビーとかデパートで見かける、誰もいないのに鍵盤が勝手に動いて演奏するピアノ。この幽霊みたいなピアノに生バンドが合わせるのは骨が折れる仕事だっただろうと思います。しかし!そんな苦労よりも、この演奏の最大のインパクトはスリリングなスピード感です。忙しい現代人の方は2分48秒辺りから1~2分間、聴いてみてください。オーディオが壊れたかと思うような猛烈に速いテンポ!作曲者本人のピアノロールに合わせると、こうなる。
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≪GERSHWIN plays GERSHWIN The Piano Rolls≫
ジョージ・ガーシュウィン(自動ピアノ)
【1993年録音(1925年&1927年製作のピアノロール)、NONESUCH】
 
ガーシュウィンが残したロールはあくまでピアノのソロです。ソロのまま再生して録音したのが(2)です。但し、(1)の録音では1925年製作のロールを使用していますが、(2)は前半が1927年、後半が1925年という2年の隔たりがあるロールを組み合わせています(理由は不明)。(2)は通常はピアノが休んでいる部分も含めて冒頭から最後まで弾き通しで、(1)の録音ではそれを全部使用せず、ピアノが休む部分はロールを休ませています。しかもロールの再生技術が(2)ほどの水準ではなく、こもったような音のピアノが入ったり休んだりするもんだからジャズ・バンドの鮮烈な音と無用に対比されてしまい、ちょっと居心地のわるさを感じます。ジャズ・バンドが輪郭を強調するからテンポの速さが際立つという作用もありそうです。ガーシュウィン本人はまさか半世紀後に自分のロールに合わせてバンドが共演するとは思っていなかったはずで、もしそのつもりがあれば違うテンポで弾いたかもしれません。
 
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≪HISRIC GERSHWIN RECORDINGS≫
ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)、ポール・ホワイトマン楽団
【1924年6月10日(旧録音)、RCA】
【1927年4月21日(再録音)、RCA】
 
(3)と(4)はピアノロールではなく、文字通り「録音」されたレコード。あちこちカットだらけの短縮版で、おそらく(3)がアコースティック録音、その3年後の(4)が電気録音だと思いますが、録音(または復刻)のクオリティはどちらも現代人にはちょっと苦しい(特に管楽器)。しかし、ポール・ホワイトマン楽団との共演で、特に(3)は初演のわずか4ヵ月後の録音。テンポは現代標準よりやや速いけど、(1)ほどショッキングとは感じません。このジャジーなノリ!これこそオリジナルです。
 
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≪GERSHWIN plays GERSHWIN≫
ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ)
【1928年6月11日録音、NAXOS Nostalgia】
 
(5)もピアノロールではなく「録音」ですが、全曲ではなく短縮版でもなく、「アンダンテ」というタイトルで後半の「ターラーラーラーラララ♪」という部分(これじゃ分からない?
)を約2分半、弾いていて、ロールにはないニュアンスがこの録音では確かに感じられます。5つの録音でぼくが最も好きなのはこれです。全曲または短縮版ということで(1)~(4)の中から1つだけ選ぶなら、総合的には(1)のインパクトを体験しないわけにはいきません
 
ちなみに、(1)(3)(4)は通常のオーケストレーションと異なるジャズ・バンド編成の「オリジナル版」です。聴き慣れない方もいるかもしれませんが、「ラプソディ・イン・ブルー」はポール・ホワイトマン楽団のアレンジャーだったグローフェ(作曲家としても有名)によって、もともとジャズ・バンド編成でアレンジされて(第1版)、その後、現在一般的なオーケストラ編成にアレンジされました(第2版)。(1)と(3)(4)は同じジャズ・バンド編成でもちょっと違う部分があるような気がしますが、詳しいことは分かりません(←違いの分からない男)。
 
アルバムとしての魅力は、文句なしに(2)が最上位です。2~3分くらいのソングナンバーがことごとくカッコいい!これこそガーシュウィンの真骨頂(例えば(2)のアルバム1曲目→ http://www.youtube.com/watch?v=BX9MCyO6smk)。これに比べると「ラプソディ・イン・ブルー」は、彼としてはちょっと背伸びした“大曲”だったのではないかしらん。以前、同じ職場の女の子から「お部屋の片付けをするときにオススメの音楽はありませんか?」とリクエストされたときに(2)のアルバムを貸したらとても喜んでくれました。こういうのを聴くと、これまで聴き慣れたオーケストラ編成の重厚な「ラプソディ・イン・ブルー」はあんまりガーシュウィンらしくない。初演当時、25~6歳で人気絶頂の若者のピアノは、思わず体が動いてしまうような軽快さとノリの良さがなくては!
 
というわけで、(2)のアルバム(「ラプソディ・イン・ブルー」以外のソングナンバー)が今回の本命。

記事一覧(第151回~第200回)

【第151回】記事一覧(第101回~第150回)
【第152回】(欠番)
【第153回】わらしべ長者 秋編
【第154回】3周年
【第155回】平均律クラヴィア曲集第1巻第1番BWV846(バッハ)
【第156回】平均律クラヴィア曲集第1巻第2番BWV847(バッハ)
【第157回】平均律クラヴィア曲集第1巻第3番BWV848(バッハ)
【第158回】平均律クラヴィア曲集第1巻第4番BWV849(バッハ)
【第159回】平均律クラヴィア曲集第1巻第5番BWV850(バッハ)
【第160回】平均律クラヴィア曲集第2巻第5番BWV874(バッハ)
【第161回】平均律クラヴィア曲集第1巻第8番BWV853(バッハ)
【第162回】平均律クラヴィア曲集第2巻第9番BWV878(バッハ)
【第163回】平均律クラヴィア曲集第1巻第10番BWV855(バッハ)
【第164回】まるで「虹と雪のバラード」? ベルギー映画「恋人」(デフリーゼ)
【第165回】今年出会った音楽
【第166回】ウィーンの夜会(ヨハン・シュトラウス2世/グリュンフェルト編曲)
【第167回】ウィーンの森の物語(ヨハン・シュトラウス2世/グバイドゥーリナ編曲)
【第168回】ラデツキー行進曲(ヨハン・シュトラウス1世)
【第169回】夜想曲(フランツ・シュトラウス)
【第170回】星の掟(ジークフリート・ワーグナー)
【第171回】ピアノ四重奏曲第1番(ブラームス/シェーンベルク編曲)
【第172回】オーボエのパガニーニ
【第173回】原曲より美しい!乙女の祈り(バダジェフスカ/パハマン編曲)
【第174回】ジゼル(アダン)
【第175回】万霊節の連祷(シューベルト)
【第176回】即興曲作品142-2(シューベルト)
【第177回】「ラモーのガヴォット」完全攻略ガイド その1
【第178回】「ラモーのガヴォット」完全攻略ガイド その2
【第179回】「ラモーのガヴォット」完全攻略ガイド その3
【第180回】わが家の天才少女
【第181回】1920年代のスウィンギング・パリ
【第182回】つけ麺とアイスコーヒーと大量のCDと私
【第183回】歌劇「カルメン」(ビゼー)
【第184回】ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲BWV1060(バッハ)
【第185回】オーボエ・ダモーレ協奏曲BWV1055(バッハ)
【第186回】「ゴールドベルク変奏曲」への道
【第187回】歌劇「蝶々夫人」(プッチーニ)
【第188回】歌劇「道化師」(レオンカヴァッロ)
【第189回】弦楽四重奏曲第10番「ハープ」(ベートーヴェン)
【第190回】人生最期の瞬間に聴きたい音楽
【第191回】シャコンヌ対決 シュメルツァーとパンドルフィ・メアッリ
【第192回】スマホと期末テストとヴィヴァルディの「春」合唱版
【第193回】おやすみクラシックス
【第194回】猫とか犬とかスペインのギターとか。
【第195回】あの日本人作曲家の交響曲第1番
【第196回】ボレロ(ラヴェル)
【第197回】オーボエ・ダモーレとイングリッシュホルン
【第198回】オーボエ協奏曲(モーツァルト)
【第199回】オーボエ協奏曲(R・シュトラウス)
【第200回】チャルダッシュ(モンティ)

チャルダッシュ(モンティ)

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先週の土曜日は「SP飲み会」でした(SPレコードとは、LP登場以前、主に1940年代以前のレコードです)。メンバーは、九州を代表するSP愛好家のふ○ジョンさん、本州を代表するSP愛好家のポンちゃ○さん、それと素人代表のLoree(以上3名)。この会合は昨年から「やるやる詐欺」状態でしたが、ようやく実現しました。
 
夕刻、都内某所のビル9階のレコード屋さんに集合し、さらにもう1軒のレコード屋さんにハシゴした後、ふじ○ョンさん行きつけのカレー屋さんでSP談義。この会合では「クライバー」と言えばカルロスにあらずエーリヒ、「フルニエのドボコン」と言えばジョージ・セル指揮ベルリン・フィルのステレオ録音にあらずクーベリック指揮フィルハーモニア管のSP盤を指すことは言うまでもありません。
 
そもそも、初心者のLoreeに参加資格があるのか疑問ですが、とりあえず数枚所有しているということで、暖かくメンバー扱いしてくださったお二人に感謝します。ふじジョ○さんもぼくも、ポン○ゃんさんとお会いするのは初めてで、ふじジョ○さんはこの会合のためにわざわざ上京し、ついでにミチエとも会ったそうです。
 
レコード屋さんではそれぞれSPを購入したのですが、何を隠そう、ぼくが自力でSPを買ったのはこの日が初めてでした!わが家のわずかなライブラリーは、先祖伝来のカペーとか、諸先輩方からいただいたものとか、ネットで代理で落札していただいたものとか、他力本願の結晶です(汗)この日、ついに(ランチ半月分をはたいて)1枚購入し、しかもそれをポ○ちゃんさんに託して復刻していただきました!
 
<曲名>
チャルダッシュ(モンティ)
 
<演奏>
イヴォンヌ・キュルティ(ヴァイオリン)、G.van.パリス(ピアノ)
【1929年頃録音、Columbia 5290(英)、マトリクス番号L869】
[裏面の「マドリガル」と合わせて、ポンちゃんさんの記事でお聴きいただけます]
 バイオリンの古澤巌さんは若い頃から、よく私の自宅にやってきた。名バイオリニストのイボンヌ・キュルティが弾く『チャルダーシュ』などに聴き入っていた。戦前の名手たちのように、小品を個性豊かに弾く彼のスタイルは、ここが出発点になっていると思う。(クリストファ・N・野澤、2006年2月22日付、日本経済新聞への寄稿記事より)
 モンティのチャルダッシュは、戦後日本では古澤巌さんがアンコール・ピースにしたのに始まり、天満敦子さんなどもレパートリーにして人気を博していますが、この二人共が実は、キュルティの演奏を聴いて原点としておられるのです。(クリストファ・N・野澤、「SPレコード」誌への寄稿記事より)
 セクシーで頭が切れて、でも可愛くて…そんな女性を魅力的と思わぬ男はいないであろう、まさにそんなイメージの演奏である。(上杉春雄)
イヴォンヌ・キュルティ!ぼくがこのヴァイオリニストを偏愛していること、また、彼女に関する情報はほとんどないことは過去記事に書いた通りです(※)。そんな中でも「チャルダッシュ」はクリストファ・N・野澤氏があちこちで紹介していることから、キュルティの代名詞的なレコードとなっています。今ではたいへん有名なこの曲を、レコードで最初に広めたのは、今となってはまったく無名のキュルティだったのではないかと思います。
 
しかしぼくは「チャルダッシュ」よりも裏面の「マドリガル」に惹かれます。「マドリガル」は過去記事でも紹介したことがありますが、ポ○ちゃんさんのクオリティの高い復刻であらためてキュルティの魅惑のヴァイオリンを皆さんに聴いていただけるようになって、感無量です
 
ポ○ちゃんさんには、続編として世界初復刻(たぶん)を含む3枚6面のキュルティを託しました(著作権等の問題がないものに限る)。計画犯のごとく用意周到に現物持参したLoreeのリクエストを快く受け入れていただき、ありがとうございます。楽しみにしています
(結局、他力本願なLoree)

オーボエ協奏曲(R・シュトラウス)

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<曲名>
オーボエ協奏曲ニ長調(R・シュトラウス)
なんというのびやかな旋律。なんという美しい世界。どこにも無理がなく、素直で、やさしい。まるで風が抜けていくようだ。低音部のささやきが耳をくすぐり、気持ちよく上へ上へと旋律が広がっていく。(中略)考えてみると、こんな斬新な始まり方の曲もない。レミレミ…レミレミ…というひそやかなチェロの誘いに、いきなりふわっとオーボエのソロが乗る。旋律はどこまで行っても、いたって「自然」である。穏やかな2楽章も、さらさらと流れる3楽章も。ところが、この「自然さ」を美しく表現するのが、きっと難しいのだ。(加藤牧菜さんの音楽エッセイ「音の向こうの景色」より)
R・シュトラウス(1864~1949)が最晩年に作曲したオーボエ協奏曲。肉食系の轟音は、今は昔。まるでモーツァルトのように澄みきっていて、これこそ最高のオーボエ協奏曲だと思っているオーボエ吹きは少なくないはずです。それどころか、ぼくは世界で最も美しい音楽ではないかと思うことさえあります。
 
天下のベルリン・フィル首席3代の演奏で聴いてみます。
 
<演奏>
ローター・コッホ(オーボエ)、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル【1969年録音、DG】
 
コッホのオーボエはモーツァルトのK314(前回記事)と同様に、太い毛筆で描いていながら一切のケバ立ちがなく、この世には存在しない理想を体現したような音。そもそも、この曲自体がこの世に存在しない理想の世界を描いているようにも思われる。
 
あらためて聴いてみると、カラヤンの指揮も含めてややコッテリ感があって、もっと淡い水彩画のような演奏を好む人もいるかもしれませんが、好みはさておき、コッホのオーボエはあまりに完璧すぎて、笑いが込み上げてきます。比較を絶するとはこのこと。CDでは入手困難な時期が長くつづいたこの録音は、≪Masters of the Oboe≫でようやく再発売されました。ホリガー&イ・ムジチ合奏団のマルチェッロなど8人のオーボエ奏者で12曲を集めた当盤は、アルビノーニとベルリーニが含まれないことで画竜点睛を欠きますが、「オーボエのCDを1枚だけほしい」という人に(2枚組だけど)薦めたい。
 
<演奏>
ハンスイェルク・シェレンベルガー(オーボエ)、ジェイムズ・レヴァイン指揮ベルリン・フィル【1989年録音、DG】
 
カラヤン最晩年の時期(1989年5月)で、指揮はレヴァイン。ぼくがオーボエを手にしたときにBPO首席だったシェレンベルガーは憧れの存在でした。使用楽器はLoree(フランスのオーボエメーカー)の最上位機種だったと思います。シェレンベルガーの音は繊細なガラス細工のようで、壊れやすく、やや神経質です。美しいと言ってもいろんな美しさがありますが、シェレンベルガーの音は儚い系の美しさ。
 
ずいぶん前(1997年)に紀尾井ホールでシェレンベルガーの公開レッスンを聴講したとき、池田昭子さん(当時、藝大4年)がこの曲を吹きました。第1楽章の冒頭からさりげな~く頻出する16分音符にちょっと力が入っている池田さんに対し、シェレンベルガーは「ヴィルトゥオーゾ風にならないように…」と助言していたことが印象に残っています。この冒頭のメロディーは、楽譜だけ見るとちっとも“歌”らしくないのですが、実は大きなフレーズが流れていて、この16分音符が表しているのは、たぶん、フレーズという名の羽毛がふわっと風に揺らめく程度の微細な動きなのかもしれない。言うは易し、おこなうは難し。
 
<演奏>
アルブレヒト・マイヤー(オーボエ)、クリスティアン・ティーレマン指揮ベルリン・フィル【2012年3月4日ライヴ】
http://www.youtube.com/watch?v=v44s14ocMV4 (2分47秒)*第2楽章より
 
リンク先の動画はBPOの公式アカウント(?)。この前日(3月3日)のライヴがDIRIGENTという海賊盤レーベルから発売されていますが、それはマイヤーにとって不本意な出来だったはずです。冒頭からティーレマンと呼吸が合わず、16分音符のパッセージも寸詰まりで苦しそうです。ハラハラしながら聴いていると、案の定、途中で派手に指を滑らせ、誠に痛々しい。しかしBPO首席といえども人間なのだ、となぜかちょっと安心します(笑)
 
余談ですが、同じ職場にケータイの着信音が「ラシラシラシラシっ♪ラシラシラシラシっ♪」(ちょっとテンポ速い)の人がいて、鳴るたびに気になって仕方ないのですが、ひょっとしたら彼もリヒャルトのオーボエ協奏曲が好き…なんてことは絶対にあり得ない、間違いない

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