2013/08/31
ヴァイオリン協奏曲第1番(パガニーニ/クライスラー編曲)
<曲名>
ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調~第1楽章(パガニーニ/クライスラー編曲)
FJさん(仮名)の影響を受けて、パガニーニを聴きたくなりました。「悪魔が乗り移った男」なんていう異名をもつパガニーニですが、この曲におどろおどろしさは微塵も感じない。なんと屈託のない、明るい音楽であることよ。ぼくが大好きなクライスラー編曲版を5つの演奏で聴いてみます。
<演奏>
(1)フリッツ・クライスラー(ヴァイオリン)、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団
(2)アルフレード・カンポーリ(ヴァイオリン)、ヴィクトル・オロフ指揮ナショナル交響楽団
(3)アルフレード・カンポーリ(ヴァイオリン)、ピエロ・ガンバ指揮ロンドン交響楽団
(4)ベンヤミン・シュミット(ヴァイオリン)、ユベール・スダーン指揮ザルツブルグ・モーツァルテウム
(5)ベンヤミン・シュミット(ヴァイオリン)、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮ウィーン・フィル
クライスラーの編曲は、その第1楽章だけを独立させたものであり、冗長な部分のカットや細部の若干の変更を通じて、ソロ・パートを効果的にきわ立たせすっきりとしたまとまりを実現させる結果を生んでいる。(RCA国内盤≪クライスラー愛奏曲集≫R32C-1085のライナーノートより)
「細部の若干の変更」なんて、口から出まかせもたいがいにしてほしい。この名編曲はクライスラーがパガニーニの素材を使って曲を組み立て直したもので、「クライスラー作曲、パガニーニによる1楽章のヴァイオリン協奏曲」(Concerto in one movement after Paganini)とも表記されます。ハープを多用し、管楽器やチェロのオブリガードに彩どられた胸ときめくオーケストレションはまるでメルヘンです。
(4)→(5)→(2)→(3)→(1)の順に紹介します。
ベンヤミン・シュミット(ヴァイオリン)
ユベール・スダーン指揮ザルツブルグ・モーツァルテウム管弦楽団
【2001年7月、8月、10月録音、OEHMS】
http://ml.naxos.jp/album/OC303
先ずは、(4)から。このヴァイオリニストは、2004年のザルツブルグ音楽祭のオープニング・コンサートで小澤征爾指揮ウィーン・フィルとコルンゴルトの協奏曲を弾いたり、そして2011年にはウィーン・フィルがシェーンブルン宮殿の庭園でおこなう毎年恒例の野外コンサート(5)に登場し、飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍です。
彼はArte Nova(及びそこから分派したOEHMS)レーベルからたくさんのCDを出していて、ぼくも数枚持っていますが、音色がちょっと独特で、ぼくの好みとは違います。しかしそれは個人的な好みの問題で、クライスラー編曲版をリバイバルせんと大舞台で世界に紹介した心意気をもってぼくは彼のファンです。
スダーンはクライスラー編曲版の魅力を分かっている人。トゥッティを鮮やかに鳴らすだけでなく、魅惑のオブリガードの数々をしっかり聴かせてくれて、音楽自体の美しさに感じ入って思わず涙がこぼれそうになります。「5枚の中に決定盤はない」というのがぼくの考えですが、どれか1枚だけ選ぶなら当盤です。
ベンヤミン・シュミット(ヴァイオリン)
ヴァレリー・ゲルギエフ指揮ウィーン・フィル
【2011年6月2日収録(Live)、DG】
http://www.youtube.com/watch?v=TjXAc5NxsHI (最初から途中まで)
次に、(5)です。前述の通り、ウィーン・フィルの野外コンサートのライヴ映像です(カデンツァの手前で切って2つに分かれています)。ザルツブルグ・モーツァルテウムもいいけど、ウィーン・フィルはさすがです。ゲルギエフは腹の底に力のこもった音をオーケストラから引き出していますが、金管を荒れ狂わんばかりにブンブン鳴らし、迫力があり過ぎて、この夢見心地の名編曲にいまいち酔えません。
それにしても、クライスラーが第2主題に注いだ愛情はひとしおです。ハープ伴奏に乗ってヴァイオリンに寄り添うチェロ、つづいてフルート(2回目はクラリネット)のオブリガード(4分06秒~、11分27秒~)、また、パガニーニの原曲ではついに現れないトゥッティ(6分23秒~、13分45秒~)には感無量です。
アルフレード・カンポーリ(ヴァイオリン)
ヴィクトル・オロフ指揮ナショナル交響楽団
【1946年6月4日録音、DECCA原盤/DUTTON】
http://www.youtube.com/watch?v=a6WPs2wxjH4 (一部分のみ)
つづいて、(3)です。動画は一部のみ。何を隠そう、カンポーリはぼくが大好きなヴァイオリニストです。彼のクライスラーは小曲も絶品で(例えば「愛の悲しみ」 http://www.youtube.com/watch?v=S7V9yzgEwR0)、もう、なめるような美音と恥ずかし気のないたっぷりとした歌いっぷりに心底ホレボレします。ヴァイオリンのソロの魅力は5枚のうち迷いなく最上位です。
オロフという人はカルショー以前のDECCAの名プロデューサーだそうです。なかなか見事な指揮ぶりですが、ぼくはやはりこの曲をモノラルで聴くのはストレスを感じます。それに、ぼくが持っているDUTTONの復刻盤は窒息しそうなほどノイズを除去しているので、動画と同じBEULAH盤がほしいです(入手困難)。
アルフレード・カンポーリ(ヴァイオリン)
ピエロ・ガンバ指揮ロンドン交響楽団
【1957年録音、DECCA原盤/BELART】
http://www.muziekweb.nl/Link/BBX1191
というわけで、カンポーリのステレオ再録音(4)。これはCDではめったに見かけないもので、BELARTという、CDコレクターはあまり買わないレーベルから出ています。初期ステレオとはいえ、鮮明な録音で、音響的なストレスはありませんが(途中でちょっと音が割れますが)、残念ながらカンポーリは縫い目のない布のような旧盤に比べると、弦と弓が擦れるちょっとしたノイズが気になります。旧盤のカンポーリが新盤並みの録音だったら…と、思わずにはいられません。
フリッツ・クライスラー(ヴァイオリン)
ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団
【1936年12月13日録音、Victor原盤/NAXOS】
http://ml.naxos.jp/album/8.110922
最後に、(1)です。ぼくが初めてクライスラー編曲版を聴いたのは、クライスラー自身によるこの演奏でした。てゆーか、何を隠そう、パガニーニの原曲よりも先にこの演奏で「パガニーニの第1番」を覚えたことを告白します。でも、だからこの編曲版を偏愛しているわけではありません、間違いない。
うちにあるのは、RCA国内盤、Pearl、Biddulph、NAXOSの復刻盤です。価格と入手の容易さが理由ではなく、ロバの耳(ぼく)にはNAXOSで十分です。クライスラーも大好きなヴァイオリニストですが、この曲はやっぱりステレオで聴きたいというのが本音。