2013/09/24
ハープ協奏曲(ヘンデル)
<曲名>
ハープ協奏曲変ロ長調 作品4-6(ヘンデル)
ヘンデルの「作品4」に含まれる6つのオルガン協奏曲のうち、第6番(作品4-6)にはハープの異稿があり、現在でもこの曲はオルガンと同じくらい(またはそれ以上に)ハープ協奏曲として演奏されます。古今東西のハープ協奏曲の中で最も有名な曲と言っても過言ではありません、間違いない。第1楽章は「ららら♪クラシック」のエンディング、第2楽章はぼくの中学校の卒業式で校長先生から卒業証書を授与される場面で使われていました。
「協奏曲」と言っても独奏楽器とオーケストラがガッツリ絡むところは少なく、独奏楽器の完全なソロばかりで、たまにオーケストラが入ってきても独奏楽器をなぞる程度です。そんなわけで、リハーサルの必要がほとんどなさそうなこの協奏曲集は、ヘンデルのオラトリオの上演の幕間に演奏されたそうで、ヘンデル自身がオルガンを披露するファンサービス的な出し物だったのでしょう。
<演奏>
(1)リリー・ラスキーヌ(ハープ)、ルイ・オーリアコンブ指揮トゥールーズ室内管弦楽団
(2)リリー・ラスキーヌ(ハープ)、ジャン=フランソワ・パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団
(3)ウルズラ・ホリガー(ハープ)、イ・ムジチ合奏団
(4)ウルズラ・ホリガー(ハープ)、トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート
(5)Hans J. Zingel(ハープ)、アウグスト・ヴェンツィンガー指揮バーゼル・スコラ・カントールム
(6)ミカラ・ペトリ(アルト・リコーダー)、ケネス・シリート指揮アカデミー室内管弦楽団
リリー・ラスキーヌ(ハープ)
ルイ・オーリアコンブ指揮トゥールーズ室内管弦楽団
【1960年発売?、Les Discophiles Français】
リリー・ラスキーヌ(ハープ)
ジャン=フランソワ・パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団
【1964年1月22日録音、ERATO】
(1)と(2)は20世紀の最も有名なハープ奏者の一人、リリー・ラスキーヌ(1893~1988)。往年の名ヴァイオリニスト、ローラン・シャルミー(1908~1959)の奥様でもあります。(1)は先日、i先生に聴かせていただいたディスコフィル・フランセのオリジナルLP(画像はネットから適当に拾ってきたもの)で、ぼくはこの演奏をCDでも聴いたことがなく、存在も知りませんでした。録音年は不明。発売年に関しては「1960年」という情報があります。信憑性は不明ながら、当たらずとも遠からずではないかと思います。ステレオ録音です。
(2)は皆川達夫先生も推薦している往年の名盤。ぼくにとってもバロック少年だった頃からの刷り込みの1枚です。当盤の録音年の情報もネット上で錯綜していますが、エラート国内盤CD(WPCC5055)にはこのレーベルのこの時代の録音としては珍しいことに、年月日(上記の通り)と録音場所まで明記されています。
初めて聴いた(1)は暖かく慎ましく、まさにぼく好みの落ち着いた大人の女性の雰囲気。一方、(2)はまるで別人です。スケール大きく、荘厳な第2楽章では曲が進むにつれて鬼気迫るほどハープの弦をバチンバチンと強奏し、怨念に近いものすら感じます。第2楽章の最後に挿入しているカデンツァがこれまた圧巻!何を隠そう、Loree少年は特にこのカデンツァ(ヘンデルが書いたわけではない)が好きだったのですが、久々に聴き直してみて、あまりにケバケバしいテクニシャンぶりにちょっと引いてしまったことを告白します

リリー・ラスキーヌ(ハープ)
マニュエル・ロザンタール指揮パリ音楽院管弦楽団【1930年代?、POLYDOR(SP)】
(Loree未聴)
(CDのジャケット画像ではありません)
ウルズラ・ホリガー(ハープ)
イ・ムジチ合奏団
【1970年録音、PHILIPS】
(第1楽章 0分00秒~、第2楽章 6分01秒~、第3楽章 10分42秒~)
ウルズラ・ホリガー(ハープ)
トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート
【1983年録音、ARCHIV】
(第2楽章 0分00秒~、第3楽章 4分13秒~)
(3)と(4)はウルズラ・ホリガー。かの有名なオーボエ奏者ハインツ・ホリガーの奥様で、彼女自身も有名なハープ奏者です。まったく個人的なことですが、ぼくが初めて聴いた演奏はラスキーヌの(2)ではなく、ウルズラの(4)だったかもしれません。中学1年の冬、父が海外出張先からのお土産で買ってきた幾つかのカセット製品に(4)が含まれていました。あれから20数年、ゆうちゃんが同じ学年になって、感慨深いものがあります。なお、(4)はジャケット記載の通り、サイモン・プレストン(オルガン奏者)を迎えての全曲録音ですが、第6番だけはオルガンではなく、ハープ協奏曲として演奏しています。
燦々と輝く太陽の光を浴びて満開の花畑に遊ぶような眩しさの(3)に対して、(4)はピリオド楽団との共演で、ウルズラも1780年製のハープを使用しています。「ハープの音色はこういうもの」という漠然としたイメージはあっても、ふだんあまり意識しませんが、(3)と(4)の第2楽章を聴き比べてみると、その違いは明らかです。(4)にも華やかさはあるけど、現代のピッチよりもやや低く、ちょっとくすんだ音色で、疲れたサラリーマン(ぼく)が癒されるのはこういう演奏です(←4連休の4日目)。
Hans J. Zingel(ハープ)
アウグスト・ヴェンツィンガー指揮バーゼル・スコラ・カントールム
【1966年録音、ARCHIV】
(5)も、(4)と同じようにエドゥアルト・ミュラー(オルガン奏者)を迎えてのオルガン協奏曲の全曲録音ですが、第6番はオルガンではなく、ハープ協奏曲として演奏しています。20世紀における古楽の演奏スタイルは年代とともに変遷に変遷を重ねて、今となってはこの人たちの演奏を「ピリオドスタイル」とは言いませんが、当時(1960年代)なりのやり方での復古的なスタイルだったと思います。
ぼくはヴェンツィンガーの演奏が大好きです。ピリオド論なんかどうでもいい。大らかで、懐が深く、全身の神経を休めてくれるような包容力。つらいときに聴いたら、涙が出てきてしまいそう。この演奏で使用されている1818年製のハープは、(4)のウルズラのハープよりも素朴な音色で、これがまたいい。ちょっとたどたどしいけど、ぼくはこの曲にヴィルトゥオーゾ風のキレを求めていない。ゆったりとしたテンポも心地よく、このまま眠ってしまいそうです。
(CDのジャケット画像ではありません)
ミカラ・ペトリ(アルト・リコーダー)
ケネス・シリート指揮アカデミー室内管弦楽団
【1982年録音、PHILIPS】
最後に、番外編としてリコーダー編曲版。「リコーダーの妖精」ことミカラ・ペトリは、まだ20代だと思っていたら、今や、美熟女でした。ま、ぼくが中学生のときに20代の後半から30代の入口だったから、当然なんですけど。ぼくはリコーダー少年だったので、この人の演奏も聴きまくりました。