完全なるディスコグラフィへの道 その3

前回のつづきです。ディスコグラフィとは、ディスクの形で残された録音を悉く調べ上げることが本分ですが、現実には「取捨選択」の苦渋の判断から逃れることができません。問題はアマチュアの取り扱いです。学生オケでも市民オケでも、また、子どものピアノやヴァイオリンの発表会でも、多くの団体や個人が自分たちの思い出のためにCDやDVDを製作します。
 
それらの演奏をディスコグラフィの対象とするべきかどうか。いつ誰がどんなものを録音しているのか、世界中と言わず国内に限っても完全なる情報収集は「不可能」と言っても過言ではないでしょう。キリがないから「アマチュアは対象外」と線引きすることは妥当な判断という気もしますが、多くの場合、オケはアマチュアでも「指揮者はプロ」です。それを有名無名で線引きするなら「主観」「恣意的」の謗りを免れない。
 
【ケーススタディ】プロ指揮者と学生オーケストラの録音(非売品)
交響曲第8番(ブルックナー)
朝比奈隆指揮名古屋大学交響楽団(1976年1月20日録音)
(試聴できますが、自己責任でお願いします)
We conclude our survey of Japanese recordings from the LP era with the third in a series of recordings by the Nagoya University Orchestra. The orchestra pressed LPs of their performances and some, conducted by well known conductors have become big collectors items. My thanks to a collector in Sapporo for making this available. This month features a performance of the Bruckner Symphony No. 8 conducted by Takashi Asahina. The performance was given on January 20, 1976 in Nagoya Citizen Hall.(リンク先より)
そもそもディスコグラフィにアクセスする人は、そのターゲットに並々ならぬ関心をもつ同好の士のはずで、たとえ大学オケのプライベート盤であろうと、朝比奈の秘蔵ライヴには絶大な情報価値があります。もし、苦渋の判断で「市販品のみ対象」と切り捨てるならば、アマチュアの録音でも堂々市販されるものは対象となる一方で、前回紹介したような「プロの非売品も対象外」となることは覚悟の上か。
 
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【ケーススタディ】プロ指揮者と学生オーケストラの録音(市販品)
ロメオとジュリエット(チャイコフスキー)、ローマの松(レスピーギ)、ラプソディ(外山雄三)、ほか
高関健指揮早稲田大学交響楽団(1986年2月録音)
 
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【ケーススタディ】プロのソリストとプロ指揮者と学生オーケストラの録音(市販品)
ヴァイオリン協奏曲(チャイコフスキー)、チゴイネルワイゼン(サラサーテ)
徳永二男(Vn)、石丸寛指揮九大フィルハーモニー・オーケストラ(1989年12月7日録音?)
 
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【ケーススタディ】プロのソリストがアマチュア時代にプロオケと共演した録音(非売品)
ミッドランドスクエア誕生記念コンサート ~全日本学生音楽コンクール歴代1位受賞者を迎えて~
ハバネラ(サン=サーンス)
成田達輝(Vn、当時:中学3年生)
沼尻竜典指揮名古屋フィルハーモニー交響楽団(2007年3月29~30日録音)
 
(次回につづく)
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完全なるディスコグラフィへの道 その2

前回のつづきです。今回は業界事情の観点から5つのテーマを取り上げます。
 
(1)ローカル盤
あらゆるCDが世界中で発売されるわけでなく、会社の規模や営業力、話題性などの様々な事情によって、特定の国や地域でのみ発売されるCDもあります。
 
海外の中小レーベルのCDが日本で多数流通しているのは、日本の代理店がその情報をキャッチし、かつ外装も含めた製品としてのクオリティが一定水準以上と判断して輸入しているからであって、そもそも彼らの視界に入らないものだってあるだろうし、目に留まっても市販に耐えないと判断すれば取り扱わないでしょう。
 
あるいは、代理店に頼らなくても、今どきネットで海外から直接買えるじゃないかと思うかもしれませんが、世界には国連加盟ベースで約200ヶ国、そのすべての国にCD市場があるわけでない(と思われる)にせよ、次々と更新される各国の新譜情報を、しかも各国の言語でキャッチすることは量的にも能力的にも個人のキャパシティを超えています
 
例えば、広島の有力書店チェーン「フタバ図書」が企画した広島交響楽団のCDを海外の個人がキャッチするのは太平洋に浮かぶ野球ボールを見つけるようなものでしょう、間違いない
 
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じゃけん!モーツァルト
広島交響楽団
指揮:渡邊一正
 
(2)廃盤
どんな業界でも、どんな製品にもライフサイクルがあります。今日売っているから来年も売っているとは限らず、いつの間にか市場から消えていきます。すでに100年を超えているレコードの歴史と対峙するにあたって、ネットは過去とのつながりに弱く、特に1970年代以前のLP(33回転)やEP(45回転)、ましてや1950年代以前のSP(78回転)はネットオークション頼みです。これらは出品されなければ存在も知られないものが多数あるでしょう。
 
そこで、足で情報を集めます。国内盤に関しては、東京文化会館の音楽資料室や国会図書館が所蔵する過去のカタログやレコードの調査は基本です。網羅性は今ひとつですが、ベースを整えるために活用します。
 
また、中古レコード店巡りも有効です。例えば、ヴィターリの「シャコンヌ」のような特定の小品をターゲットとする場合、ネットオークションでは「ヴァイオリン名曲集」みたいなアルバムタイトルのみとか、収録曲についても「チゴイネルワイゼンほか」なんて手抜きの出品もあり得ますが、店頭では現物を手に取って確認できます。しかし品揃えが流動的で、しかもネットオークションと違って、売れると情報が残らないことが多いので、一期一会の調査で精神衛生上よろしくない。
 
このように様々な方法で探索するのですが、日本人が日本の国内盤を調べることさえ容易ではなく、海外のローカル盤に至ってはリアルタイムの新譜情報のキャッチも難しいのに、いわんや廃盤をや。
 
(3)付録
CDだからCD市場で取り扱われるとは限らず、教則本や雑誌に付録CDが付いているものがあります。教則本の場合はお手本の意味合いですが、日本のスズキメソードは豊田耕兒(元・ベルリン放送交響楽団コンマス)や江口有香(元・日本フィルコンミス)など、アメリカのスズキメソードはデヴィッド・ナディアン(David Nadien、元・NYフィルコンマス)の演奏で、教則本はいらないからそのCDだけほしいと思う人がいてもぼくは驚かない
 
雑誌や書籍の付録は既出録音の再利用だったり、ダイジェスト盤だったりすることが多いのですが、新録音や古いレコードの世界初復刻など、製作者の心意気が感じられる企画もあります。音楽之友社の月刊誌「レコード芸術」には、数年前に「日本のオーケストラを聴く」と銘打ったシリーズで毎号1楽団ずつ、未発表のライヴ録音のCDが付いていました。これらは装丁こそ貧相ですが、れっきとした市販品(の付録)です。
 
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「レコード芸術」2013年2月号
付録CD連動企画「日本のオーケストラを聴く」第9回
広島交響楽団
指揮:秋山和慶
 
(4)海賊盤
世間一般、グッチやエルメスなどの高級ブランド品に限らず、例えば1980年代にロッテのビックリマンチョコのオマケのシールを「ロッチ」と名乗る業者が偽造して小学生に売りさばくなど、国内外の様々な業界で類似のケースはいくらでもあるでしょう。
 
レコードやCDにも海賊盤があります。しかしこの業界では、有名レーベルの製品の装丁や中身をそっくりコピーしたものは少数派で、著作権者の許可を得ていない録音を勝手に製品化するケースが一般的(?)です。コンサートホールでの隠し録り(いわゆる膝上録音)とか、FM放送のエアチェックとか、著作権が存続しているレコードとか、ソースは様々です。装丁はオリジナルで、簡素なものが多いですが、音質面も含めたクオリティは製作者によって様々で、必ずしも粗悪品とは限りません。隠し録りなんて、いかにも怪しく思われるかもしれませんが、のちに著作権者(遺族など)の許可を得て正規盤として堂々発売される場合もあります。
 
問題は海賊盤(と思われるもの)をディスコグラフィの対象とするかどうか。それらは「これは海賊盤です」と書かれているわけでなく、裏社会で密売されているわけでもなく、渋谷などの大型店舗で堂々市販される有力な(?)レーベルもあり、かつてカルロス・クライバーが来日時に自分の海賊盤を嬉々として買い集めたとか、都市伝説のような話もあります。ぼくは市販されているものはディスコグラフィの対象とします。
 
(5)プライベート盤
「プライベート盤」という用語は「海賊盤」と同義で使われる場合もありますが、ここで取り上げるのは著作権者が関わって正規に製作される非売品(NOT FOR SALE)です。例えば、オーケストラの定期会員向けとか、スポンサー企業の株主などのステークホルダー向けとか、音楽祭などのイベントの関係者向けとか、様々な機会に製作されます。また、ソリスト個人が製作して直販することもあります。これらは市販していませんが、プロ奏者によるれっきとした正規盤です。
 
プライベート盤は通常、関係者のみぞ知るものです。ネット社会だから世界と間隙なくつながっていると思うのは幻想で、つくづく、ネットとは発信側と受信側の双方に「つながる意思」がなければつながらないものだと痛感します。ディスコグラフィには可能な限りこのような閉じられた情報も収集し、それを求める人につなげる使命があると思います。なお、アマチュアの演奏については次回「その3」で取り上げます。
 
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小島秀夫
(元・広島交響楽団コンサートマスター)
 
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上野眞樹
(元・広島交響楽団コンサートマスター)
 
(次回につづく)

完全なるディスコグラフィへの道 その1

【ディスコグラフィとは】
音声を記録したディスク(レコード、音盤)を収録対象とし、個々のディスクの特徴を一定の記述規則に基づいて簡潔に表現し、そのデータを探索しやすいように排列したリスト。図書を対象とした書誌に相当する二次資料である。録音媒体が多様化したため、コンパクトディスクや磁気テープに音声を収録したものも対象とするようになった。音楽のディスクを収録対象とする場合、記述項目には、作曲者、タイトル、演奏者、録音日と場所、シリーズ名、収録曲目、制作会社、制作会社のカタログ番号、発売日などが含まれることが多い。(図書館情報学用語辞典)
これまで幾つかの特定の作品、または特定のアーティストのなんちゃってディスコグラフィをつくってきましたが、これがいかに涙ぐましい作業であることか。はじめに結論を書くと「完全なるディスコグラフィ」は「不可能」と同義語であると言ってもいいくらいです。どこが難しいのか、何に留意すべきなのか、これまでに得られたささやかな知見をまとめます。
 
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(1)作品の特定
ディスコグラフィをつくる人はターゲットを取り巻く事情を知る必要があります。例えばホルストの「惑星」やストラヴィンスキーの「春の祭典」は固有のタイトルが明らかなので、他の作品との取り違えは起きにくいですが、シューベルトの「未完成」はどうでしょう。この交響曲はかつて「第8番」でしたが、最近は「第7番」とするディスクもあります。
 
また、ドヴォルザークの「新世界より」も現在は交響曲第9番ですが、かつては第5番でした。このような作品は旧番号で発売されたディスクを漏らさないように留意する必要があります。ニックネームを持たない前後の番号をターゲットとする場合はなおさらです。
 
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【ケーススタディ】チャルダッシュの女王(カールマン)
このオペレッタは作曲者名(Kálmán)からして「カールマン」「カールマーン」「カルマン」など表記が様々で、タイトルも「チャルダッシュの女王」「チャルダッシュ姫」「チャルダッシュ侯爵夫人」「チャルダッシュ公爵夫人」など様々(「侯爵」と「公爵」は別の爵位では?)、さらにジプシーの楽曲形式名を指す「チャルダッシュ」も「チャルダーシュ」「チャールダーシュ」など様々です。
 
また、英語(The Gypsy Princess)はもちろん、原題であるドイツ語(Die Csárdásfürstin)や作曲者の母国語であるハンガリー語(A Csárdáskirálynő)を押さえることも基本です。なぜなら、その国でしか発売されず、その国の言語でしか記載されないディスク(ローカル盤)が特に多いからです。これはどんな作品でも同様ですが、現実問題としてハングルやキリル文字の解読は絶望的です
 
「チャルダッシュの女王」はさらに複雑なことに主役のシルヴァ嬢(Sylva)の役名がハンガリー語版ではシルヴィア嬢(Szilvia)に変更されるのですが、ハンガリーの隣国ルーマニアでは役名だけでなくオペレッタのタイトル自体が「シルヴィア」(Silvia)となっています。ドリーブ作曲のバレエ音楽と取り違えた悲劇の購入者もいると思われます
 
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【ケーススタディ】シャコンヌ(ヴィターリ)
この曲も一筋縄ではいきません。「シャコンヌ」(Chaconne)という楽曲形式名は言語によって様々な呼称があり、日本語でも「チャコーナ」「チャッコーナ」(Ciaccona)という表記がしばしば使われます。さらに状況を複雑化させているのは作曲者名です。ヴィターリは親子で音楽家で、このターゲットの作曲者は息子のほうのトマソ・アントニオ・ヴィターリ(Tomaso Antonio Vitali,1663?~1745)とするのが一般的ですが、父のジョヴァンニ・バティスタ・ヴィターリ(Giovanni Battista Vitali,1632~1692)とするディスクも多いのです。真実はこの際どうでもいいのです。「そのように表記しているディスクが多い」という現実が重要です。
 
では、父ヴィターリの名前で売られている曲が本当にターゲットと一致するかどうか。例えば、上のカタログに掲載されているジャック・ティボー(Jacques Thibaud)やナタン・ミルシテイン(Nathan Milstein)は有名な録音なので同一曲だと断定できます。また、G.Prouvostは知らないけど、Francescattiの編曲版を使用しているということは同一曲だろうと推定できます。
 
でも、L.Jonesという人の録音はこの文字情報だけでは判別できません。同一曲かもしれないし、同名異曲かもしれない。それは「ラモーのガヴォット」や「モーツァルトのメヌエット」と同じことで、同名異曲は決して珍しくないので、作曲者名と曲名の組み合わせだけでは特定できません。
 
実際、ジェラール・プーレ(Gérard Poulet)の「バロックへの帰郷」というアルバムに収録されている父ヴィターリの「シャコンヌ」は同名異曲で、ターゲットとはまったく別の曲です。当盤の日本語帯にはその旨のコメントが小さな字で書かれているのですが、帯なし盤ではそれが判らなかった悲劇の購入者もいると思われます
 
(2)演奏者の特定
人名にも様々な表記があります。例えばクラウディオ・アバド(Claudio Abbado)はかつて「アッバード」と呼ばれ、そんなのは判りやすいもんですが、「のだめ」にも出演したチェコの指揮者ズデニェク・マーツァル(Zdeněk Mácal)は「マカール」、エリック・カンゼル(Erich Kunzel)も昔の国内盤では「クンツェル」と表記され、別人だと勘違いする人もいるでしょう。また、チョン・キョンファ(Kyung-Wha Chung)は漢字で「鄭京和」と書かれることも多く、そんな例は枚挙にいとまがないので、ターゲットに応じて誰に留意するべきか、その名前にどんな表記パターンがあるかを知っておく必要があります。
 
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【ケーススタディ】イヴォンヌ・キュルティ
ぼくが勝手に「日本イヴォンヌ・キュルティ協会」を名乗っているフランスの女性ヴァイオリニストの場合、彼女の名前(Yvonne Curti)をネットで検索するとイヴォンヌ・カーティス(Yvonne Curtis)という、綴りが1文字違いのレゲエ歌手(?)の情報が大量にヒットするので、そこからわが愛しのイヴォンヌを絞り込む必要があります。その際にはよくある誤記情報(Curty)を排除しないように留意する必要があります。日本語でも「クルティ」とか、その程度はまあ理解できますが、かつては「クュールティ」という表記もありました。誰やねん
 
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また、結婚して姓が変わったり(実情としては旧姓のまま活動する人のほうが多い)、本名と芸名など演奏者側の都合で名前そのものが複数存在する場合もあります。「幽霊」や「覆面」についても考慮が必要です(※)。団体名も同様で、再発売の際に表記が変更されるとややこしいことになります
ウエストミンスター録音オーケストラとして知られる「フィルハーモニック・シンフォニー・オーケストラ・オブ・ロンドン」の実体は「ロイヤル・フィル」でしたが、録音当時、契約上の理由により、正式名を使うことができませんでした。MCAではこの度ロイヤル・フィルとの交渉を改めて行いその結果、正式名称「ロイヤル・フィル」を使用できることで合意致しました。従いまして、当アルバムでは「ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団」と表記してございます。御了承下さい。(1997年、ウエストミンスター国内盤CD解説書より)
(次回につづく)

1950年代のダンシング・パリ

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<アルバムタイトル>
Suite à danser de Jean Wiener
【Les Discophiles Français(SD3)】
 
<演奏>
Orchestre Hewitt
[Valse] https://www.youtube.com/watch?v=qDB_whrzY10
[Valse musette] https://www.youtube.com/watch?v=RCcNbHWDP3Y
 
ジャン・ヴィエネル(Jean Wiéner)は当ブログ常連の皆様におかれましてはご存知の通り、1920年代のパリでミヨーやプーランク、ラヴェル、サティ等々が常連だったという伝説のキャバレー「屋根の上の牛」で、クレマン・ドゥーセ(Clément Doucet)とともに専属ピアニストを務めていた人物でした。
 
また、後年には映画音楽で名を上げ、「巴里の空の下セーヌは流れる」の有名な主題曲「巴里の空の下」(ユベール・ジロー作曲)以外の音楽とか、「現金に手を出すな」「バルタザールどこへ行く」「少女ムシェット」「やさしい女」等々の有名な映画(ぼくはまったく知らないけど)を手掛けたそうです。彼の名前は「ヴィエネル」のほか「ヴィエネール」「ヴィエネ」「ウィエネ」「ヴィーネ」等々と表記されるので、あれこれ検索するのもひと苦労です。
 
そんな彼のダンス音楽。ジャケットの裏側は無地で解説は一切なく、ネット上でも当盤に関する情報はほとんどありません。盤面の記載によると、第1組曲(6曲)と第2組曲(3曲)、いずれもワルツやタンゴといった小品を合計9曲収録。果たしてこれらは実用のダンス音楽として作曲されたのでしょうか。それとも最初から聴くための音楽だったのでしょうか。分かりません
 
ヴィエネルの作品目録(※)によると、第1組曲は1954年、第2組曲は1955年の作品ですが、ディスコフィル・フランセのカタログ番号で当盤の後続に当たるレコードを復刻したForgotten Recordsはその録音を1953年と記載しており、やや辻褄が合いませんが、いずれにせよこの辺りの年代のレコードでしょう、間違いない。
 
聴いてみると、演奏は「エウィット管弦楽団」、つまりカペー四重奏団のセカンドだったモーリス・エウィットが主宰し、バッハやモーツァルトを多数録音している団体ですが、当盤の実態はピアノが主導し、アコーディオンも参加する小編成のダンスバンドです(ピアノはヴィエネル自身が弾いているのかも)。ワルツは19世紀のウィーンではあり得ない流麗さでまるで映画音楽、その他は哀愁を帯びてホロ苦く、曲によってはほとんどシャンソンのテイストでなんとも素敵。300円。
 
 作品目録(おそらく奇特な個人が趣味で作成したもの)

南国のバラ(ヨハン・シュトラウス2世)

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あけましておめでとうございます。クラシックブログは新年の書き初めにシュトラウスを取り上げることが暗黙の掟になっています。
 
<曲名>
ワルツ「南国のバラ」(ヨハン・シュトラウス2世)
 
<演奏>
フリッツ・ライナー指揮ピッツバーグ交響楽団
 
【フリッツ・ライナーのヨハン・シュトラウス2世】(ライヴ・放送録音を除く)
1941年 ウィーン気質、宝のワルツ★
1946年 南国のバラ
1950年 こうもり抜粋(英語歌唱)●
1957年 朝刊、美しく青きドナウ、皇帝円舞曲■
1960年 芸術家の生活、雷鳴と電光、ウィーン気質、南国のバラ、宝のワルツ■
★=ピッツバーグ交響楽団
●=RCAヴィクター交響楽団
■=シカゴ交響楽団
【参考】Fritz Reiner Discography
 
フリッツ・ライナーのウィンナ・ワルツと言えば1950年代のシカゴ交響楽団との録音が有名で、かのエリーザベト・シュヴァルツコップは「無人島に持って行く1枚」に挙げたとか(黒田恭一さんはこの話を「クリスマス・プレゼントで友人に贈るとしたら」というドイツのオペラ雑誌の記事だったと紹介しています)。
 
実はライナーは1940年代にもピッツバーグ交響楽団と3つのワルツを録音しているのですが、古い録音だし、また、上記の通りいずれもシカゴ響と再録音しているので、今となってはほとんど話題にも上らず、ぼくもレコード屋さんでたまたま見つけるまで存在も知りませんでした。
 
それで、こりゃあ新年の記事にちょうどいいとブロガー魂を発揮して買って(300円)聴いてみたら、最初の「南国のバラ」の序奏からしてアグレッシブで、特にラスト1分間の期待以上の非ウィーンテイストには思わず(喜びのあまり)絶叫したくなる。ここには舞踏会で優雅に踊るキラキラした貴婦人の姿は見えず、まるで修学旅行か何かで舞踏会の見学に来た男子高校生の群衆がギラギラした目で貴婦人を求めているような、猛獣のようなシュトラウス。
 
さらに凄まじいのが併録(当盤ではむしろA面)のハンガリー舞曲集。選ばれた8曲はすべて後年にウィーン・フィルと再録音しています。特に第6番、もともと曲自体が大ハシャギしたかと思えば次の瞬間にはこの世の終わりのごとく悲嘆に暮れ、わずか3分間のうちに気分もテンポもコロコロ変わって躁鬱気味です。
 
そこに全力で体当たりするピッツバーグ響はまったく素晴らしい。「全力」と言っても、人間というものはふつうは無意識のうちに体の何処かに余力が残ってしまうのではないかしらん。そんなリミッターが彼らにはなく、火事場の馬鹿力みたいなパワーに思わず(快感のあまり)絶叫したくなる。
 
♪ハンガリー舞曲第6番 https://www.youtube.com/watch?v=ajK8N_mGEN8 (3分22秒)
 
そんなわけで興奮気味のお正月を過ごしています。本年もどうぞよろしくお願いします。

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