卒業記念舞踏会(ヨハン・シュトラウス2世/ドラティ編曲)

昨日は卒業式でした。この3年間、細かく振り返るといろいろあったのですが、感覚としてはあっという間。幼稚園や小学生のときは「あんな小さかった赤ちゃんが大きくなったねぇ」という感慨があったけど、赤ちゃん時代はもう遠い過去で、いつの間にか、ぼく自身の記憶も鮮明な自分の高校時代と同じ年頃に達しようとしている、まるで仮想現実のような紛れもない現実に狼狽します。しかし昨日の式のあと、「今日は来てくれてありがとう。」と自然に言ってくれるゆうちゃんがわが子でよかったと、心から思います。
 
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<曲名>
バレエ「卒業記念舞踏会」(ヨハン・シュトラウス2世/ドラティ編曲)
 
<演奏>
(1)アンタル・ドラティ指揮ダラス交響楽団【1940年代後半録音(?)、RCA】(約30分)
(2)アナトール・フィストゥラーリ指揮ロンドン新交響楽団【1953年録音、DECCA】(約37分)
(3)アンタル・ドラティ指揮ミネアポリス交響楽団【1957年録音、MERCURY】(約26分)
(4)ウィリー・ボスコフスキー指揮ウィーン・フィル【1960年録音、DECCA】(約34分)
(5)アンタル・ドラティ指揮ウィーン・フィル【1976年録音、DECCA】(約41分)
 
「卒業記念舞踏会」は、ドラティが「バレエ・リュス・ド・モンテカルロ」の指揮者を務めていた時期にシュトラウスのあまり知られていないワルツやポルカを使って構成した編曲作品です(1940年初演)。ウィーンの名門女学校の卒業記念舞踏会に陸軍士官学校の候補生たちが招かれ、はじめのうちはみんなモジモジしているけど、次第にカップルになっていくという、要するに上流階級の若い男女の合コンを描いたバレエです。
音楽の宝庫を切り刻むという作業は、それほど簡単なことではなかった。というのは、物語のために無理に縮めたり伸ばしたりしたくなかったのだ。物語の展開も損なわず、音楽も損なわないで作るには、一方でシュトラウスの原曲を尊重しながら、しかも一方では何の制約もなしに私の自由にさせてもらうことによってのみ可能となる。そこで≪卒業記念舞踏会≫という作品は、シュトラウスの作品による接続曲として聴いてはならないもので、むしろ一つの物語に合わせて新しく再構成された“シュトラウスの音楽”と受け取られるべきものだ。(アンタル・ドラティ)
ところが、初演後、楽譜がすべて行方不明になってしまい、ドラティが記憶をもとに第2版を作成。さらにその後、オリジナル版が発見され、ドラティ自身が両版を組み合わせたミックス版を作成したので、全部で3つの版があり、たいへんややこしい。
 
そんなわけで、録音ごとに演奏時間がかなり違うのはテンポの速い遅いや繰り返しの有無だけでなく、そもそも採用されている原曲が違ったり、曲自体のカットの有無によります。ミックス版(5)の原曲は以下の通りですが、(1)(3)に登場する「ヴェネツィアの一夜」は(2)(4)(5)には含まれず、一筋縄ではいきません。全容の解明が待たれます(←他力本願なLoree)。
 
ミックス版の原曲(バレエの場面は■、曲名は赤字で記載)
■イントロダクションと女生徒のワルツ
「加速度ワルツ」作品234
■士官候補生の到着
カドリーユ「愉快な仲間」作品86
■宴の始まり
ワルツ「法律家舞踏会」作品177
ワルツ「パンフレット」作品300
■鼓手の踊り
ワルツ「メフィストの地獄の叫び」作品101
カドリーユ「仮面舞踏会」作品92
■レ・シルフィードとスコッツマン
ワルツ「夜の蝶」作品157
ワルツ「おとぎ話」作品312
■お茶目な踊り
ワルツ「文芸欄」作品293
■ヴィルトゥオーゾ・ポルカ
・(原曲不明)
■ライバルのバレリーナ
ポルカ「狩り」作品373
■先生と生徒
喜歌劇「ウィーンのカリオストロ」第1幕
■常動曲
ワルツ「新聞記者」作品321
「常動曲」作品257
■マズルカ「将軍と女校長」
ワルツ「マイノスの響き」作品145(ヨハン・シュトラウス1世)
ポルカ=マズルカ「バガテル」作品187
■グランド・ギャロップ
ポルカ「宮廷小舞踏会」作品230
カドリーユ「美しい世界」作品199
ポルカ「仮装行列」作品240
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」作品214
ポルカ「特急(急行列車)」作品311
■フィナーレ
「インディゴ行進曲」作品349
 
【参考】(5)国内盤CD解説書(福本健氏による)、英語版Wiki
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完全なるディスコグラフィへの道 その8(最終回)

最終回です。
 
(1)果てしなき道
ベートーヴェンの第5交響曲、全曲盤の最も古い録音といえば、一般にはアルトゥール・ニキシュが、ベルリン・フィルを振ったグラモフォン盤といわれています。1913年の録音で、有名なレコードなので、何種類もCD復刻が有りますが、筆者はそれよりも3年前の1910年録音の、第5の全曲盤を見つけましたので、紹介したいと思います。(クリストファ・N・野澤、「SPレコード」誌、1999年5月)
本ディスコグラフィーでは、これら3大オペラに対する夫々の初録音以来、2014年6月までに世界で発売された全ての全曲盤を対象に(中略)、録音順に配列してあります。(我孫子オーディオ・ファン・クラブ、モーツァルトの「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「魔笛」ディスコグラフィ、2015年)
ディスコグラフィ作成は永遠に終わりがない作業です。仮に、ある時点で完成度の高いものが仕上がったとしても、忘れられた録音が発見されたり、様々な事情でお蔵入りしたレコード会社の録音や放送局(日本ではNHK、TBSなど)の倉庫で眠っている録音が発掘されたり、さらに最新録音も次々と登場するので、ディスコグラフィは瞬く間に陳腐化します。
 
そこで、ひとまず「○○年までに発売されたもの」と区切るのが現実的です。前述のベートーヴェンの第5のようなケースはめったにありませんが、未発売のお宝録音の発掘は世界中で盛んにおこなわれているので、ある時点で「○○年までに録音されたもの」とは言いにくいのです。なお、飲み仲間のG氏は「春の祭典」を日本語のほか英語(The rite of spring)とフランス語(Le sacre du printemps)も合わせて3言語検索を毎日実行し、ディスコグラフィをブラッシュアップしています。凄くしんどい(本人談)。
 
(2)ディスコグラフィへの記載要領
言語や記載項目、掲載順は絶対的なルールがあるわけでなく、編者によります。言語については、ぼくは日本語を基本として、日本語表記が一般的でない人名や曲名のみ原語で記載します。それは決してぼくの語学力(英検4級)のせいではなく、ダラーニ(Jelly d'Aranyi)やグリュミオー(Arthur Grumiaux)のように綴りが難解な人もいるので、日本人にとっての読みやすさを優先しているからです、間違いない!
 
また、ある特定の演奏家のディスコグラフィでは様々な作曲家名や曲名を何語に統一するべきかという問題が生じます。わが愛しのイヴォンヌ・キュルティの場合、彼女のレパートリーには当時(戦前)のフランスで流行していたと思われるシャンソンもあり、これらの曲名も含めて日本語や英語に統一することは非常に困難です。
 
記載項目については、ぼくはヴァイオリン曲のディスコグラフィでは「録音年」「ソリスト名」「共演者名」「CD発売レーベル」「録音年月日」を記載し、録音年月日が古い順に並べています。他方、世界的に有名なクレイトンの「ディスコペディア」(※)には録音年のデータがなく、ヴァイオリニスト別に「作曲者名」「曲名」「編曲者名」「共演者名」「マトリクス番号」「発売レーベル名とカタログ番号(再発売含む)」の順に記載し、作曲者名のアルファベット順に並べています。言語の統一性は見られません。(資料提供:ib○tar○w先生)
 
記載例(James Creighton, Discopaedia of the Violin)
Yvonne Curti
SIMONETTI
Madrigale pf - arr. vln&pf with G. Andolfi pf Pathé X9756
Madrigale pf - arr. vln&pf with G. van Parys pf L870 Columbia 5290, 01529, D19041, J704
 
(3)同演異盤
ぼくはカタログ番号はフォローしませんが、中には世界各国で異なる同一録音のカタログ番号を悉く調べ上げる猛者もいます。例えば、ある録音が日独米の3ヶ国で発売される場合、猛者は各国で異なる3つのカタログ番号をすべて記載し、さらに再発売のこれまた異なるカタログ番号の網羅も目指します。
 
この場合、あるレコードやCDがディスコグラフィ上のどの録音と同一なのか(あるいは新発見なのか)、特定する手掛かりとなるのは録音年月日などの詳細データです。明記されていても誤記の可能性もあるので妄信はできませんが、超廉価盤にはそのようなデータが記載されていない場合があります。
 
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畏友t○rikera氏は100円ショップCD研究の権威で、例えば、ダイソーのホロヴィッツのチャイコフスキーのピアノ協奏曲(共演者は記載なし)は1941年4月19日のライヴ録音(トスカニーニ指揮NBC交響楽団)が使われていることを特定。また、ネット上にはPILZやDeAGOSTINIの幽霊演奏の正体追究に執念を燃やしている人もいます。カタログ番号レベルでのフォローにはこのような異次元にして難易度の高い調査を伴う覚悟が必要です。
 
【参考記事】「100円ショップ鑑定団」(t○rikera氏)
 
では最後に、これまでのテーマを振り返りつつ、復習を兼ねて2つのケースを提示します。皆さんのご意見をお聞かせください。
 
(バックナンバーと主なテーマ)
その1 表記問題(情報収集の観点)
その2 ローカル盤、廃盤、海賊盤など
その3 アマチュアの演奏
その4 別テイク
その5 部分録音、短縮版、リハーサルなど
その6 編曲版
その7 映画
その8 表記問題(記載の観点)など
 
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【ケーススタディ】プロとアマチュアの共演(しかも編曲版)
♪ピーターと狼(プロコフィエフ/戸田顕編曲)
千々松幸子(ナレーター)、福本信太郎指揮相模原市民吹奏楽団

「ど根性ガエル」のピョン吉や「ドラえもん」の野比玉子(のび太のママ)の声優を迎えたアマチュア名門吹奏楽団の市販CDは同曲の日本語ナレーション盤のディスコグラフィの対象にしてもよいでしょうか。
 
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【ケーススタディ】使い回しかもしれない別テイク
♪ピアノ協奏曲第1番(ベートーヴェン)
第1楽章(カデンツァ:ベートーヴェン)
第2楽章(カデンツァなし)
第3楽章(カデンツァ:ベートーヴェン)
 
♪ピアノ協奏曲第1番(ベートーヴェン)
第1楽章(カデンツァ:グレン・グールド)
第2楽章(カデンツァなし)
第3楽章(カデンツァ:グレン・グールド)
ラルフ・フォークト(Pf)、サイモン・ラトル指揮バーミンガム市交響楽団
 
当盤には同じソリスト、同じ指揮者、同じオーケストラによる第1番が2つの演奏で収録され、第1楽章と第3楽章のカデンツァは別版が採用されています。しかしカデンツァを含まない第2楽章はまったく同じ演奏時間であることを飲み仲間のn先生が指摘。そこでJH氏が比較試聴するも同じ演奏としか思えず、これはひょっとして別テイクではないのか。真相はいかに。

完全なるディスコグラフィへの道 その7

今回のテーマは「映画」です。
 
映画には音声が含まれるので、映画は広い意味では音楽ソフトの一種と言えるのではないでしょうか。例えば、美空ひばりは少女時代から多数の映画に出演し、しかも映画ではレコードに吹き込まなかった曲も歌っているので、映画に目を向けなければ彼女の歌手としてのレパートリーを網羅することはできません。(※)
 
【参考記事】「天才少女時代の美空ひばり-フィルモグラフィー」(ib○tar○w先生)
 
クラシック業界においても映画に出演した演奏家は枚挙にいとまがなく、最たるものは「オペラ映画」です。オペラの映像ソフトは劇場のライヴを撮影したものが主流ですが、「オペラ映画」は例えばジュリー・アンドリュース主演のミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」のように、出演者本人(または別人)があらかじめ録音した歌に合わせて演技し、映画仕立てで撮影します。
 
【ケーススタディ】オペラ映画
映画「蝶々夫人」(1955年公開)
八千草薫(演技&セリフ)、オリエッタ・モスクッチ(イタリア語吹き替え歌唱)
オリヴィエロ・デ・ファブリーティス指揮ローマ・オペラ座管弦楽団
何よりの難関は、歌と、歌う口元をぴったり合わせなければならないことでした。歌はもちろん、本職のオペラ歌手の人の声が入っています。その声に合わせて、正確に発音をし、私自身が本当に歌っているように、一体にならなければ、成立しないわけです。オペラにもなじみがなく、イタリア語もわからない私にとっては、不安などというなまやさしいものではありませんでした。(八千草薫、1999年)
八千草薫さんの「蝶々夫人」は日伊合同製作のイタリア語映画(日本語字幕付き)。歌っているのは別人ですが、蝶々さんとして空前絶後の美しさに音楽なんかどうでもよくなる。
 
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【ケーススタディ】映画の中の演奏シーン
映画「カーネギーホール」(1947年公開)
ヴァイオリン協奏曲~第1楽章より(チャイコフスキー)
ヤッシャ・ハイフェッツ(Vn)、フリッツ・ライナー指揮ニューヨーク・フィル
https://www.youtube.com/watch?v=ruvljAjzscg (1時間40分54秒から約11分)
 
往年のアメリカ映画「カーネギーホール」のように、当時の巨匠たちが多数出演し、しかも演奏シーンがやたら長くて印象的な作品もあります。このような映画の中の演奏はディスコグラフィの対象とするべきでしょうか。長い曲は途中カットして演奏される場合もありますが、小品などノーカットの演奏だったらいかがでしょうか。フィルムもDVDなどの形で発売されれば「ディスク」です
 
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【ケーススタディ】その他の映画
特に音楽がテーマの映画でなくても、トーキー以降、音楽が一切ない映画はどれだけあるでしょうか。気づかなくても様々な音楽が流れ、それを演奏している人がいます。その音楽はその映画のためのオリジナル曲の場合もあるし、既存のクラシック曲が選ばれる場合もあります。このようなサウンドトラックは、ある特定の作品をターゲットとする場合にせよ、またはある特定の演奏家をターゲットとする場合にせよ、ディスコグラフィの対象とするべきでしょうか。
 
なお、ベルリン・フィルは戦前、多数の映画音楽への録音をおこなっているそうですが、マイケル・グレイ氏のベルリン・フィル・ディスコグラフィにはそれらの録音を含んでいない旨、ことわり書きがあります。
 
(次回につづく)

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